ないものねだりなジーニアス
夜黒
ないものねだりなジーニアス
「それじゃあ行ってきます」
「なるべく早く帰ってきなさいね。帰ってきたらすぐにレッスン始めるから。」
「………」
私の浮かれた気持ちに水をさすような母の言葉に私は靴の踵を踏んづけながら勢いよく扉を閉めた。
「…別に言われなくても帰って来るし」
家という名の牢獄から逃げるように走り去りながら、悪態をつく。いちいち言われなくても私はそんなに聞き分けの悪い子供ではないのに、と。
まあ母が以前よりも口うるさくなったのは、私が一度レッスンをサボったことが原因だろう。こんな時代になってまで親に人生という名のレールを敷かれ、その上を歩かされる。生まれながらに自由を取り上げられる私のような子供もいるのだ。反抗するのも仕方ないだろう。社会は本当にどうかしている。そんな悲劇のヒロインぶったことを脳内に巡らせるのもそこそこに、私は駅前の入り組んだ道を足早に通り抜けた。
「…大分よくなったな」
「……!ほんとですか!」
「ああ、だがまだ直すべきところばっかりだ。特にここの色使いが...」
白石先生が、手元のキャンバスに指を差しながら添削をする。先生の言葉一つ一つを忘れないように耳に残しながら、私は胸ポケットからメモ帳を取り出した。中横罫なんて気にせずにただ聞き取った言葉を余すことなく書き綴っていく。色使い、構図、質感の描き表し方、影の落とし方…。とても人には見せられるような字ではないなと苦笑するが、手は書くのを止めずに動かし続けた。
…ああ、ずっとここに居たい。
耳を塞ぎたくなる様な怒号と単調に響くピアノの音、床に散乱した楽譜。
それらから逃げられるここは…
「え!絵望ちゃんすごい!」
「さすが絵望!」
「……!」
そんな浅はかな私の思考は、アトリエの隅から聞こえてきた、複数人の声が口にした名に止められた。声の方向を向くと、生徒数人に囲まれた一人の少女が目に入る。
絵望(えの)。
胸の中にザワザワとこだまする二文字。
私が最も嫌いな二文字。
私が最も憎む二文字。
私が最も尊敬する二文字。
私が最も欲する二文字。
私が最もなりたいと願った二文字。
手が止まる。思考が止まる。息が詰まる。私はきっと狂わされている。
絵望。彼女は私が通うこの絵画教室の講師である画家、白石真佑の一人娘である。画家の娘であるだけあって将来は有望。周りの大人からは「必ず父に負けず劣らない素晴らしい画家になるだろう」と、そう言われて育てられてきた。
らしいのだが、当の本人は、その秀でた絵の才能を一度も誇ったことはなかった。
だから、私は彼女が嫌いだった。私が欲しくて欲しくて仕方がないものを「要らない」とそう言って捨てたから。でもそれなら何故、彼女は自身が嫌いなはずのこの絵画教室に居るのだろう。その疑問の答えは明白である。彼女もまた、私と同じように決められたレールの上を歩かされているのだ。彼女の絵筆を握る表情が、その全てを物語っている。
「…もしかしたら、私と似ているのかもしれないな」
白石先生から返されたキャンバスを握ってぼんやりと呟く。メモ帳の書き殴った字は、途中で時が止まったかの様にぴたりとなくなっていた。ああ最悪だ。アイツさえいなければ。そんなどす黒い感情に、心が支配されていくと同時に目の前が灰色になっていく。好きなはずの場所すらも、好きじゃなくなってしまう。どうしてそんな人生なのだろうか。諦めに近い溜め息と共に、私は目の前の色がなくなった世界から、目を背ける様にしてゆっくりと目を瞑った。
医者の子は医者に。教師の子は教師に。そんな事、いったい誰が決めたのだろう。わたしは、そんなものに囚われる人生を送りたいとは思わない。そんな人生なんて望まない。
わたしは、画家だなんて、絵だなんて望んでいない。だからこんな才能、持つだけ無駄なものである。わたしは、周りから頭ひとつ抜けて絵が巧みに描けてしまうこの手を恨んだ。何度いらないと思っただろう。でも、周りの老若男女は誰一人として味方になってくれやしない。わたしの気持ちを分かってくれはしない。わたしが本当に欲しいものは、本当にやりたいことはこれではないのに。人間というものは、与えられた環境の中でしか生きることを許されない。所詮、縛られたまま生きていく哀れな生き物である。まあこんなこと、人間であるわたしが偉そうに言えたことではないが。
油絵の具の、独特な匂いにツンと鼻の奥をつかれて意識を覚醒させる。また、か。何度目かわからないこの風景。目の前の机の上にも、そして床にも、ありとあらゆる画材が散らばっているのが目に入る。机に突っ伏して寝ていたせいで身体が痛むのを感じた。そういえばもう何日もベッドで寝ていない様な気がする。寝起き早々ベッドに沈めたくなる身体に鞭を打ち、無理やり起こした。わたしが枕の代わりにしていたものは、ビリビリに破かれた幾つもの紙の破片。これは昨夜、父親に破かれたばかりの絵画教室の課題の絵だった。
「…また一から書き直し、か…」
じわっと視界が歪む。寝起きで出た欠伸のせいでも無ければ、破かれたことが悲しくて出た、悲しみを意味する涙でも無い。眠気はとうに覚めているし、絵を破かれるのなんて慣れたものだ。悲しいなんて感情は、とうに消え去っている。寧ろ、描きたくも無いし自分にとっては要らないものだから、破いて欲しいと思っているほど。ただ視界が歪んだのは、逃げたいと思っているからだ。好きなことを縛られるこの場所から。わたしは、本当はキャンバスよりも楽譜の方が好き。触れるものは使い古された絵筆じゃなく、鍵盤がいい。そんな幻想、一言でも口に出してしまえばきっとまた父にアトリエに連れ込まれることだろう。言えたものでは無い。抗うなんて選択肢は、「画家の娘」として生まれた運命によって、潰されているのだ。
「…描かなきゃ。」
意味もない絵画を描くくらいならば、自分の思い描く理想の未来を描くことができたのならば。これもまた、わたしの叶うはずもない、幻想の一つに過ぎないというのに。
「絵望、今時間ある?」
学校から帰宅してすぐ、自宅の近くにある父の絵画教室に向かうために、床に無造作に散らばった画材を鞄に詰める。その最中、扉を軽く叩く音と共に、わたしの名を呼ぶ母の声が聞こえた。
「お母さん?どうしたの?」
「ちょっと絵望に話したいことがあってね。」「え、でもわたし今から絵画教室に…」
「お父さんにはお母さんから話しておくわ。あまり無理に描いても進まないでしょう?」
「………うん、ありがとう。」
纏めきったが用が無くなってしまった荷物を床に置いて、手招きする母に連れられてリビングに入った。普段は絵画教室に行っているこの時間に家にいるなんてことは初めてで、少し心がそわそわする。毎日、行きたくないと思い続けた場所にいざ行かないとなると、少し変な感じだ。父に何も言わずに休んだこと、母がなんとか言ってくれるとは思うが、きっと父は何が理由であろうと怒るだろう。これももう慣れたものだが、わたしの気分は沈んだ。
「……ところでお母さん、話したいことって?」わたしの問いかけに母は一枚のチラシを取り出してから話を切り出す。
「絵望、お父さんの絵画教室に通ってる、黒瀬音々ちゃんって子知ってる?」
「黒瀬音々……」
聞き覚えのある名前だ。話したことはないが、確かセミロングの細長い指の子だったはず。人一倍、絵に対する熱量があってわたしとはまるで真逆な…
そこまで思い出してからはっとした。そうだ、あの子は。
「黒瀬ピアノ教室の…」
「そう。この間たまたま絵画教室の前の通りであってね、ピアノ教室のことについて色々聞いてきたの」
「……!」
その言葉に目を見開いたわたしに、母はうっすらとした笑みを見せる。
「絵望、よかったら体験だけでも行ってみない?」
「え……?」
先ほどから驚き過ぎて口からまともな言葉が発せられない。わたしが、ピアノ教室の体験に……?母の言葉が、理解を拒んだ頭の中で反響している気がする。一体、どういった風の吹き回しだろう。今まで、わたしがピアノをやりたいと言った時には、必ず反対されたのに。あの時の我儘は無駄ではなかった、ということだろうか。にしても、今更こんな都合のいいことが起こるとは。何か裏がありそうな気がして、素直に受け止めることができない。
「……」
「…どう?行ってみない?」
母が広げていたチラシを折りたたみながら、再度わたしに問いかけてくる。行ってみたいかと聞かれれば、行きたい。でも、行くのが怖い。好きなことを素直に好きになっていいのかどうかが。体験に行くと見せかけて、絵画教室に連れて行かれたりするかもしれない。そう思うとなかなか首を縦に振れなかった。
「ねえ、絵望。」
「お母さん…?」
わたしが答えに困って俯いていると、母が静かにわたしの名前を呼んだ。糸で引っ張られる様に俯いていた顔をあげると、いつになく真剣な母と目がかち合った。
「……」
思わず言葉を失う。どうすればいいのかわからない。戸惑うわたしを見つめて母は表情を変えずに話し始めた。
「し、失礼します……!」
「いらっしゃい。白石さんで合ってるかしら?」「はい。今日は短い間ですがよろしくお願いします。」
「そんな固くならないで大丈夫よ。ほら、こちらに。」
「は、はい!」
母親からの提案に乗り、わたしは母と二人でピアノ教室に来た。正直、自分でも今何が起きているのか未だにわかっていない。望んでいたはずの光景に、本当なら舞い上がってしまいそうなほど胸が躍るはずなのに。わたしの心はそんな思いと反対に、いろんな感情が渦を巻いて閉ざされ掛けていた。不安と恐怖が、喜びと困惑が。一気に押し寄せてくる感覚にわたしは思考停止する。目の前では黒瀬さんが何やら色々な事を説明してくれている様だが、まるで頭に入ってこない。あぁもったいない。こんな機会、この先一生ないかもしれないというのに。好きなピアノと楽譜がある。大好きな音楽が自分の目の前にある。なのに……。
「絵望さん?」
「……え?あ、はい…」
突然黒瀬さんに不思議そうに名前を呼ばれ、わたしは反射的にすっとんきょうな間抜けな声で返事をする。隣に座っている母も、少し驚いた様にわたしの顔を見た。
「大丈夫?ちょっとぼんやりしている様に見えて。」
「絵望?体調が悪いのなら無理しなくていいのよ?」
「…だ、大丈夫です。ちょっと緊張してて…」
心配をかけてしまっては良くないと思い、慌てて緊張しているからと言って、探る様な表情の二人をかわす。すると黒瀬さんが、
「初めての場所って緊張するわよね。…あ、そうだわ。」
と、何か思いついたかの様に呟いて、ソファを立ち上がった。
「音々!帰ってきているんでしょう?ちょっと降りてきてちょうだい。」
階段の方にそう声を掛ける。しばらくしてスリッパのパタパタという足音と共に一人の少女が、リビングに姿を現した。
「何の用?母さ……」
少し気だるげにそう口を開いた少女は、わたしの方を見た途端にぴた、と動きが固まった。開いたままの唇からは言葉一つ発せられない。
「体験に来てくれた白石絵望さんよ、ほら挨拶しなさい。」
「…あ、黒瀬音々です。よろしく……」
「こちらこそ……」
「同じ年頃の子が居れば少しは緊張が解れると思って。悪いけど音々、ちょっとだけ付き合ってくれる?ついでにピアノを弾いてるところも少し見せてあげて。」
「.......。」
黒瀬さんの言葉に、わたしからふいと顔を背けた彼女の、横顔を見つめる。あの瞳、アトリエにいる時にも見たものだ。いろんな感情が入り混じっているような、そんな瞳。わたしに対していろんな感情を向けてくる彼女。
彼女は、どうして…
「それじゃあ音々、楽譜を出して。今日はいつもと違って人が見ているのだから変な失敗でもしたら許さないわよ。」
「……わかり、ました。」
黒瀬さんの言葉に、音々は重い響きで小さく返事をした。彼女は椅子に座る直前にちらっとわたしの方を向く。先ほどまで、いろんな感情が渦巻いていたその瞳は、きつい藍色に染まっていた。わたしは、その瞳の色を知っている。苦しみの色。わたしが絵と向き合っている時にしている目の色と、同じ色。でも、わたしと彼女は、全く一緒という訳ではなかった。彼女の藍色の瞳の奥深くには、燃えそうなほどの紅色をたぎらせていた。その瞳の藍に、逃れられない運命に抵抗ができない苦しさを。紅に、私の演奏を一音たりとも聞き逃すなという意志を。強く、強く。わたしは思わずぐっと拳を握りしめる。
「音々いくわよ。ワン、ツー!」
手が痛い。拳を強く握り締めすぎていたせいだろうか。それとも、レッスンのせいだろうか。どちらだとしても、私は別に構わない。筆さえ握れればそれでいい。私は疲れ切った身体をベッドに預ける。ボスンという音と共に、埃が舞う。鼻がむずむずするのもお構いなしに私は枕に顔を埋めた。
「白石絵望……」
無意識に呟くのは彼女の名前。数日前、彼女の母親に絵画教室の近くで会った。彼女は、
「貴方の家のピアノ教室について教えて欲しい」と、そう言ってきた。私は不思議に思いつつも教えられる範囲で教えたのだが、どうやら、それは間違っていたのかもしれない。今日、彼女は白石絵望を連れて体験に来たのだ。このピアノ教室に。母親の呼ぶ声に嫌々ながらリビングに降りた時、彼女の姿を見て、私がどれほど困惑したか。私のレッスンの様子を見つめる彼女の瞳は、とても強い赤色だった。影に、少しだけ青色を忍ばせた。そんな彼女からは強い意志と、少しの不安の音が聴こえた。だからこそだ。私は、ピアノの才まで、彼女に抜かされてしまう様な気がして、息が詰まった。自分でもびっくりした。嫌いなはずの、大嫌いなはずのピアノで「彼女に負けたくない」だなんてプライドが芽生えたことが。でも、思い返せば私は、昔からピアノが嫌いだった訳ではなかった。かつては純粋に音を奏でることが好きだった。自分の特技として自信を持てていた。
唯一の私の胸を張れることだった。そこまで思考が巡ってからはっとする。私は、本当は……。気がつけば、手の痛みは引いていた。
「……やっぱり、彼女は私にはないものをたくさん持っているな。」
大切な思いも、もっと上を目指したいという向上心も、負けたくないという強いライバル心も。これらは全部彼女が思い出させてくれたものだった。私はそんな人のことを一瞬でも恨んでしまったのか。自分の狭い心を責めそうになる。でも、もう過ぎてしまったことは仕方がない。大事なのは、これから先の自分の行動だ。
「...よし。」
拳を強く握りしめる。
私と、彼女ならきっと……。
「白石絵望さん、私に絵を教えて欲しいの。」
鴉が鳴き始める時間にはまだ少し遠いアトリエに響いたのは、一人の少女の声だった。
「……え…?」
自分の掠れた声が、二人きりの静かな空間に響く。思いがけない彼女からの要求に、わたしは思わず固まった。目の前にいる彼女…黒瀬音々は、真剣な眼差しでわたしの瞳を見つめる。力強い、覚悟の色が灯っている瞳で。その力強さに気圧されて、わたしは思わず彼女から目を逸らしてしまった。
「もちろん、ただ私に一方的に教えて欲しいと言う訳ではないです。もし、貴方が私に絵を教えてくれるというのなら、私は貴方にピアノを教えます。」
「……え?」
思わず逸らした目をふたたび彼女に戻す。再度目を合わせた彼女の瞳には、先ほどよりも強い覚悟の色を感じた。わたしは思わず口籠る。今まで、わたしのことを恨む様な様子すら見せていた彼女が、わたしに絵を教えて欲しいだなんて……。それに、ピアノを教えると言うことも一体どうしてなのだろうか。
「えっと…どうしてか理由を聞いても……?」
恐る恐る尋ねてみる。彼女はわたしから視線を外し、少し遠くを見据えてきっぱりと言った。
「私と貴方の二人なら、きっとお互いの足りないものを補い合える最高のパートナーになると思ったからです。」
「最高のパートナー…」
初めて言われた言葉にびっくりする。でもなぜだか、そんな予感が自分にもあった。絵を描くのが上手な、ピアニスト志望の白石絵望と、ピアノを弾くことが上手な、画家志望の黒瀬音々。正反対とも言えるわたしたちだけど、お互いがお互いを補い合えば、敵なんていない二人になれる。それって、凄く…。
「凄く素敵ですね…!」
わたしのその言葉に、厳しかった彼女の表情はパッと柔らかくなった。その表情に当てられて、覚悟を決める。わたしは……
「黒瀬音々さん、わたしにピアノを教えてください!」
どれだけ辛い状況だとしても、もう諦めない。
「……もちろん!」
柔らかくなった彼女から、笑顔が溢れる。初めて見た彼女の笑顔に、釣られてわたしも微笑んだ。
「ねぇ、同い年なんだし敬語もやめて話そうよ。私のことも好きに呼んでほしいな。」
「え、えっと…じゃあ、音々ちゃん」
「音々ちゃんね。じゃあよろしくね、絵望先生!」
「せ…先生…!?」
「あはは、冗談だって。じゃあ早速教えてもらおうかな~」
「わ、わたしなんかで良ければ…説明も絵も上手くないし、お父さんみたいにアドバイスはできないけど…」
「そんなことないよ、私なんかよりずっと上手なんだから。でも…無理はしなくていい。出来る範囲でお願いしたいな。」
「……わかった、ありがとう!」
貴方のおかげで、わたし、一歩踏み出せそうだよ。大切なものを教えてくれてありがとう。今の私達なら、こんなしがらみからもきっと…。
そこからは話が早かった。性格や境遇が似たもの同士だったわたしたちは、あっという間に意気投合した。わたしはあれから、母の協力の元、父に頼み込んでなんとか週に一回だけ、音々の家のピアノ教室に通わせてもらえることになった。音々のお母さんからのレッスンが終わったあとは、音々の部屋にお邪魔して、いろんなことを教わりながら、二人で並んでピアノを弾いた。絵画教室の日には反対に、絵画教室が始まる一時間ほど前にアトリエに来て、音々にいろんなことを教えながら、二人で絵を描いた。大嫌いだったアトリエも、音々のおかげで好きな場所になった。
わたしたちはただ、同じピアノ教室と絵画教室に通う、ある一つの才に恵まれてしまった二人の少女。でも、仲のいい親友でよきライバルで、お互いにかけがえのない存在だと言い合える、そんな関係。わたしたちが巡り会えたのは果たして偶然なのか必然なのか。真実はわからないけれど、少なくともわたしはそんな言葉で片付けてしまえる出会いではないと思っている。そのくらい、わたしの中での彼女と言う存在は、とても大きくて、大切なものなのだ。
「すごいね、絵望!こんなに上手いんだから、きっと世界で活躍できるピアニストになれるよ!」
「そ、そうかな……まあ、音々が言うんだから、きっとなれるよね。」
「もちろん、私が保証するよ。」
「ありがとう…!音々の方こそ、あっという間に私よりも上手くなって…これなら素敵な画家になれるよ!」
「本当?じゃあ私たちは、お互い自分の夢を叶えられる、天才だね!」
とあるピアニストは、こう言った。
「……私、昔は画家を目指していたんです。家系の関係で、幼い頃からピアノを習っていたのですが、正直ピアノは、あまり好きではありませんでした。ですが、今こうしてピアニストとして活躍出来ていること、後悔はしていません。大嫌いだったピアノを、一人の女の子が好きにさせてくれたんです。今回の曲は、私が画家を目指していた学生の頃……。ピアノと再び向き合うために背中を押してくれた、大切なライバルで親友である、その子へ向けた曲なんです。」
とある画家は、こう言った。
「今では、わたしの代表作になっている『色と音』という作品は、わたしが昔、ピアニストを目指していた時に、共に切磋琢磨した一人の親友を思い描いて描いたものです。わたしたち二人はお互い得意なことが正反対で、なりたいものも正反対だったんです。ないものねだりだったあの頃の自分がいたからこそ、今、自分は画家として頑張れている、そう思っています。」
ないものねだりなジーニアス 夜黒 @akatsuki_4same
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