言葉を砕く

我妻 伈之介 慚愧

言葉を砕く

あの日、あの公園のベンチで

ぼくらは言葉に酔いしれていた


お互いの言葉が愛おしくて

温もりを感じていた


言葉の距離感は想い合うほどに近しくて

言葉以上のものが伝わる瞬間


確かにぼくらは春の日差しの中で最愛だった


そして、


その日、その部屋の片隅で

ぼくらは言葉を失ってしまった


お互いの言葉がなかろうとも

肌が重なれば良かった


言葉の距離感は感じ合うほどにか細くて

言葉以下のものを探り合う瞬間


確かにぼくらはうだる暑さの中で恋人だった


そして、


この日、この人込みに紛れて

ぼくらはお互いの目も見れなかった


お互いの言葉を砕き合って

遠くなるばかりだった


言葉の距離感は言い合うほどによそよそしくて

言葉以外のものを感じ取る瞬間


確かにぼくらは夜の寒空の中で他人だった



伝えたいと思うから、心の中でことばが打ち砕かれていく


肌じゃなくて、伝えたい、伝わりたいんだ


だから、


光るようにぼくらを包み込む言葉を下さい


未来を織り込んでいくために


end

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