スマホを手にしたチンパンジー

ウホッ

チンパンジーにスマホを持たせたら、一日中TikTokを見てたんですよ。まじで。

動物園でチンパンジーの群れが暇そうにしてたんで、iPhoneを50台ぐらい寄贈したんです。

飼育員さんも「いや、正気ですか」みたいな顔してたけど、設置してくれた。

最初のうちは全員ビビってましたね。

画面に映る自分に威嚇して、裏側を覗き込んでは「ウホ？」みたいな顔。

でも、ある日ボスのケンジくんが偶然TikTokを開いたんです。

踊る人間の動画を見て、ケンジくんは一歩も動かなくなった。

他のチンパンジーも群がって、誰が長くスマホを見られるかで小競り合い。

やがて、スマホを持つケンジくんに、ムラウくんが反旗を翻した。

ムラウくんは賢くて腹黒い。

ケンジくんが水を飲みに行くタイミングを見計らって、

スマホをひったくったんですよ。

次の瞬間、檻の中は阿鼻叫喚。

毛が飛び、石が飛び、スマホを持つ者がボスになる。

まじで社会の縮図。

で、極めつけがハナコちゃん。

この群れでいちばん頭がいいメスです。

彼女ね、とうとう自撮りの映像をアップできるようになっちゃった。

長い腕を器用に使って、ダンスして、笑顔をカメラに向ける。

そしたらその動画が世界でバズった。

「自撮りするチンパンジーTikToker」って。

フォロワーは数百万。

ニュースにもなって、「人間に近づく知性の証明だ」とか言われてた。

俺はそのニュースをスマホで見て、なんとも言えない気持ちになった。

“人間に近づいた”っていうより、

“俺たちがあっちに追いつかれた”ように思えてならなかった。

あの日から、動物園は毎日満員。

それまでは寂れたしょぼい地方の動物園だったのに、世界中から観光客が押しかける。

観光客がスマホを掲げて、檻の前でハナコちゃんを撮ってる。

みんな笑顔で、同じポーズで。

その光景を見ながら、ふと冷めた気持ちになったんですよ。

──あれ、俺らもあいつらとさほど変わんないんじゃね？って。