「花束みたいな恋をした」
前回、私の好きなビターエンドの映画をいくつか挙げたが、今日はその中から『花束みたいな恋をした』をピックアップして語ってみようと思う。このエッセイでは好きな作品の感想文みたいなのも、ちょいちょい綴っていけたらと思う。
この映画は凄い。
これといって奇抜な設定や衝撃的な展開があるわけではなく、ただただありふれた男女が付き合って別れるまでを、淡々と描いている。たったそれだけなのに、ものすごく面白いのだ。
YouTubeで考察動画を見まくった時期もあった。この映画、主役の二人について冷ややかな目線で観る人が一定数いる印象があるのだが、私もその一人だ。
めちゃくちゃ攻撃的な書き出しになってしまうが、麦くんと絹ちゃん、はっきり言って私は嫌いである。この二人はサブカル好きのごくごく普通な一般人なのだが、サブカルを好きという点でおそらく二人とも「自分は他とは違うのだ」と思い込んでいる。『ショーシャンクの空に』『実写版 魔女の宅急便』を好きな人や、押井守を知らない人達をうっすらと見下したりしてている。
そこら辺の価値観で意気投合、更には好きなものが同じことを知った二人は運命を感じ、最強ラブラブサブカルバカップルとなる(早口言葉か!)。
しかし、私は初見の時からずーっと「この二人、サブカルのことそこまで好きじゃないだろう」と思っていた。はっきりとした原因はこの時点ではよく分からなかったのだが、考察動画を見まくった際に「違和感の正体はこれか!」という気付きがあった。
二人は好きなもののどこが好きかを語り合ったりはしないのだ。
例えば出会いの場面で好きな作家を言い合う時も、作家の名前を羅列するだけ。それだけで二人は満足そうにしている。『穂村弘だいたい読んでます』とか言ってたけど、穂村弘の作品でお気に入りのひとつを挙げたりなど、具体的な話は特にしない。
きっと麦くんにとっても絹ちゃんにとっても、サブカルは自分自身を表現する最も素敵なアクセサリーなんだと思う。良さがわかる自分すごいだろ!麦くんはそれを分かってくれる!絹ちゃんはそれを分かってくれる!気持ちいいー!となって燃え上がってるふうに私には見える。
好みが全く一緒だ、運命だ、ずっと一緒にいようと陶酔するバカップル期の二人は、全く同じ形のテトリスが合体しようとしてるみたいで、ぴったり同じ形になるのはありえないわけだ。それでも無理やりくっつこうとしてるからそのうちゲームオーバーになってしまう。
物語の後半で生活を営むために麦くんは社会に揉まれていく。ずっと二人で好きなものに囲まれて幸せな生活を送るため 始めたことだったのに、社会がどんどん麦くんを変えていく。
変わっていく麦くんにガッカリする絹ちゃん。変わらない絹ちゃんにイライラする麦くん。私はこの二人が嫌いなはずだけど、この辺りまで来ると、幸せだった頃の二人を思い返してかなしい気持ちになる。
そうして終盤のファミレスのシーン。出会ってまもない頃の麦くん絹ちゃんそっくりのカップルの登場に、ひたすら幸せだったあの日の追憶と、自分たちは特別でもなんでもなかったという現実がいっぺんに襲いかかってきて二人は泣いてしまったんじゃなかろうか。ファミレスを飛び出し、抱き合って号泣するシーンはかなしくも美しく、私の一番好きな場面だ。
この映画は「恋人と見に行くと別れる」みたいに言われてたけど、むしろ私はこういう映画を一緒に語り合える恋人が欲しいなと思う。おまえ麦くんと絹ちゃんにマウント取ろうとしてるだろって?そうです。
あと公開当時に続編をほのめかすような記事を見かけたような気がして、今はどうなってるんだろうと思って検索してみたら、そんな記事は一個もなかった。勘違いだったのかしら。
あの映画はあれで完成されている。続編はいらない。……とずっと思ってきたけれど、今の自分は、一度枯れた花束の行方がどうなるか、正直ちょっと気になる方かも。
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