アットラストサムライ~闘々士~

阿弥陀乃トンマージ

第一章

乱入者は唐突に

                  序


「……はて?」


 上半身に狩衣を纏い、下半身に袴を着た女性が首をわざとらしく捻る。長く綺麗な、艶のある黒髪が揺れる。


「……」


 その視線の先には、袖口など所々に赤い縁取りがなされた白を基調とした着物を着た金髪ロングヘアの若い女性が立っていた。


「……『参加者』にあんさんみたいな別嬪さん、いらっしゃったかしら?」


 黒髪の女性がさらに首を傾げる。


「………」


「そのように黙っといてもらっては、こちらも困ってしまいますなあ」


 黒髪の女性は苦笑する。


「…………」


 金髪ロングヘアの女性は尚も沈黙する。


「……たとえこの季節でも、ここは新潟県佐渡ヶ島……そのようなお召し物では風邪を引いてしまいますえ?」


 黒髪の女性は手に持っていた、閉じたままの扇を金髪ロングヘアの女性の体に向かって指し示す。金髪ロングヘアの女性は着物を着ているが、両肩のあたりが出ており、下半身の裾はものすごく短く、ミニスカートのようになっていて、長い両脚は白いニーソックスで覆われてはいるが、太ももがあらわになっている。着物というか、着物風の着物と言った方が適切なのかもしれない。


「……………」


「また沈黙ですか……まあええわ、単刀直入にお尋ねするとしましょう……」


 黒髪の女性はため息交じりに呟く。


「………………」


「あんさん……いったいなんの『士』でっしゃろか?」


 黒髪の女性が扇をバシっと金髪ロングヘアの女性に差し向ける。


「……『術士じゅつし』」


「!」


 金髪ロングヘアの女性がよく通る声で答える。その答えに対し、黒髪の女性が細めていた目をわずかに見開く。


「……アンタと同じ術士」


 金髪ロングヘアの女性がお返しとばかりにビシっと黒髪の女性を指差す。


「そんな馬鹿な……」


 黒髪の女性が扇を自らの顎に当てる。


「馬鹿とか言わないでよ」


「そんな阿呆な……」


「言い直さないで」


「ありえへん……」


「何故そう思うの?」


 金髪ロングヘアの女性が首を傾げる。


「……この佐渡ヶ島には、現在、十六の『士』がいてはる……」


「ああ、そんなにいるんだ……」


 金髪ロングヘアの女性が周囲を見渡す。


「それぞれ異なる『士』だということは事前に確認済み……つまり、術士はウチ以外には一人もいないはず……」


「そんなのよく分かるわね」


「式神を飛ばして、きちんと把握しましたから」


 黒髪の女性が懐から人の形をした小さい紙を取り出して、ヒラヒラとさせる。


「ふ~ん、便利じゃん……待って、十六?」


 一旦頷いた金髪ロングヘアの女性が黒髪の女性に視線を戻す。


「ええ」


「この佐渡ヶ島での闘いは、山梨県、長野県、新潟県の三県……いわゆる『甲信越』地方の領有権をかけた闘いよね?」


「そうです」


「今現在の日本という国は、九つの道州と、三つの特別区……合わせて十二の行政区に別れていて勢力争いをしていたはずだけど?」


「はい、『黎和』初期からそうなっています」


「……四つ余計じゃない? 計算が合わないんだけど」


「……」


 黒髪の女性が黙る。金髪ロングヘアの女性が重ねて尋ねる。


「ねえ、これはどういうこと?」


「………」


「黙っていないでよ」


「……それについて教える義理はありまへん」


「む……」


「それよりも聞きたいことがあります」


「なによ」


「あんさんは……なんなんですか?」


「え……そうだね、強いて言うなら乱入者かな?」


 黒髪の女性からの問いに金髪ロングヘアの女性が笑みを浮かべながら答える。


「そうです……か!」


「‼」


 黒髪の女性が扇を横に振るうと、火の玉が数個発生し、金髪ロングヘアの女性に向かって飛ぶ。金髪ロングヘアの女性はそれらをかわす。


「お呼びでない方はご退場願いましょう!」


「いきなりね!」


「乱入者に遠慮する道理はありまへん!」


「! おっと!」


 黒髪の女性が扇の先から勢いよく水を出す。金髪ロングヘアの女性が素早い動きでそれもかわす。黒髪の女性が舌打ち交じりに声を上げる。


「ちょろちょろと!」


「チョロチョロと水を出したのはそっちでしょ!」


「……ならば!」


「ぐっ⁉」


 黒髪の女性が扇を下に振り下ろすと、やや大きな土の塊が地面から浮かび上がり、金髪ロングヘアの女性のみぞおちにぶつかる。予期せぬ攻撃を食らった金髪ロングヘアの女性は動きを止めてしまう。黒髪の女性が笑みを浮かべる。


「ふふ……念には念を!」


「むっ⁉」


 黒髪の女性が扇を上に振り上げると、地面から木が生え、伸びた枝が金髪ロングヘアの女性の両手両足を縛り上げて、自由を奪う。


「……トドメと参りましょう」


 黒髪の女性が扇を金の剣に変化させる。鋭く尖った切っ先を光らせながら、金髪ロングヘアの女性にゆっくりと近づき、切っ先を心の臓あたりに向ける。


「……火・水・土・木・金……『五行の理』ね……こうも見事に使いこなすとは……」


「京都特別区代表の術士であるウチにとっては造作もないこと……」


 金髪ロングヘアの女性の呟きに黒髪の女性が反応し、動きを止める。


「隙有り!」


「⁉」


 金髪ロングヘアの女性が目を見開くと、赤い両目が光り、雷が黒髪の女性に落ちる。雷の直撃を食らった黒髪の女性はその場に崩れ落ちる。金髪ロングヘアの女性が笑う。


「アタシ、星ノ条煌ほしのじょうきらめきは、『ことわりはお断り』の術士なの……って聞いてないか……アンタの代わりにこの『さむらい』同士の闘いに参加させてもらうわよ……!」


 自由に動けるようになった煌と名乗った女性は颯爽と歩き出す。

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