第4話 交差する未来

小学四年生、五年生と月日が流れるにつれて、木口春菜と木下秋斗の関係は、学校中が知る特別なものになっていた。


放課後、春菜が秋斗の家にお見舞いに行く習慣は続き、クラスの誰もが「ハルと秋斗は付き合っている」と口にするようになった。春菜は内面のシャイさから、それを公然と認めることはなかったが、秋斗と二人でいる時の心地よさが、何よりも真実だった。


秋斗は相変わらず月に一度、あるいは季節の変わり目には必ずと言っていいほど体調を崩したが、その都度、春菜の励ましと優等生としての努力で乗り越えてきた。彼の笑顔は変わらず穏やかで、春菜の恋心は、心配という重みを抱えながらも、さらに深く根を張っていった。


そして、二人は同じ地元の中学校に進学した。


制服に身を包んだ秋斗は、小学生の頃の可愛らしさから一変し、スラリとした立ち姿がより大人びて見えた。春菜は女子バスケ部に入り、運動と学業で相変わらず中心的な存在となったが、秋斗への気持ちだけは、誰にも見せない秘密のままだ。


二人は当然のように同じ中学の教室で隣り合い、友人たちも二人の関係を自然に受け入れた。彼らの初恋は、田舎の中学校で「公認の仲」となった。


中学一年生の夏休み。二人はいつもの公園のブランコではなく、中学校のグラウンド脇のベンチで話していた。未来について語り合うことが、この頃の二人の大切な時間になっていた。


「春菜は、将来どんな仕事につきたいの?」


秋斗が尋ねた。


「私はね、体育の先生になりたいんだ。子どもたちと一緒に体を動かすのが好きだから」


春菜は目を輝かせた。その夢は、活発な彼女にぴったりの夢だ。


秋斗は静かに頷き、遠くの校舎に目をやった。


「僕は……人の役に立つ仕事がいいな。病気で苦しんでいる人の力になれるような、研究者とか」

彼の口から「病気」という言葉が出たとき、春菜の胸がチクリと痛んだ。彼の優しさ、知性、そしていつも抱えている体調の不安定さ。すべてがこの夢につながっているように感じられた。


「秋斗なら、なれるよ。絶対、なれる」


春菜が力強く言うと、秋斗はふっと微笑んだ。


「…そうだね。頑張るよ」


その笑顔は、中学に入ってもなお、どこか影を帯びていた。春菜は知っている。秋斗が時折、授業中に鉛筆を持つ手が震えたり、階段を上るのを避けたりしていることを。そして、その様子を、彼は春菜に気づかれないよう必死で隠そうとしていることを。

中学二年生になったばかりの春。それは、突然訪れた。


四月下旬、学校へ登校するなり、春菜は秋斗が当面の間、学校を休むことになったと先生から聞かされた。風邪や熱ではない。**「精密検査のため、県外の病院に入院することになった」**と。


春菜は呆然とした。毎月の体調不良は慣れていた。しかし、長期の入院は初めてだった。


放課後、春菜はいてもたってもいられず、秋斗の家に向かった。玄関先で応対してくれた秋斗の母親は、いつも以上にやつれた様子だったが、春菜に優しく微笑んだ。


「秋斗、数日後に入院するの。今、荷物を詰めているわ」


春菜は、お願いして少しだけ秋斗と会わせてもらった。


秋斗は、ベッドの上で荷物の整理をしていた。彼の顔は、この数ヶ月で急に痩せ細り、肌の白さが際立っている。しかし、春菜に気づくと、いつものように穏やかな笑顔を見せた。

「秋斗、数日後に入院するの。今、荷物を詰めているわ」


春菜は、お願いして少しだけ秋斗と会わせてもらった。


秋斗は、ベッドの上で荷物の整理をしていた。彼の顔は、この数ヶ月で急に痩せ細り、肌の白さが際立っている。しかし、春菜に気づくと、いつものように穏やかな笑顔を見せた。


「春菜。急にごめんね。ちょっと、詳しく体のチェックをしてもらうことになったんだ」


彼はそう言ったが、どこか落ち着かない様子で、何度も手の甲を擦っていた。


「いつ、帰ってこられるの?」


春菜は声を震わせながら尋ねた。


「わかんないけど……夏までには絶対、帰ってくるよ。だから、春菜は部活も勉強も頑張って。僕僕が戻ってきたら、また一緒にブランコ乗ろう」


「うん……約束だよ」


春菜は、活発な自分を演じることができず、目に涙を溜めたまま頷いた。秋斗の温かい手の感触、優しい話し方、そして彼の語った未来の夢。それらすべてが、今、病気という見えない壁によって遠ざかろうとしている。


春菜は、秋斗の優しい笑顔と、彼を包み込む病室の白い光景を脳裏に焼き付けたまま、家に帰った。

初めて経験する、長期的な別れ。春菜の心は、激しい不安と、彼への募る想いで張り裂けそうになっていた。

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