自称『野良の看護婦』さんが、夜の公園で看病してくれるお話。

米太郎

第1話

 今日も酒を飲んでしまった。

 医者からは止められているけど、ついつい……。


 ただ、飲まなきゃやってられない夜もある。



「なんで、いつも俺ばかりが言われるんだよ…………」



 この世の中、上司のご機嫌を取れるような調子が良いヤツが報われる社会なんだ。

 仕事ができるとかは関係ない。そもそも仕事をしているかどうかが怪しいヤツが傷心していくのだから、能力なんて関係ないって思えてくる。


「誰が必死に作業していると思ってるんだよ……」



 何もしていない同期の方が、どんどんと評価を上げて出世街道を進んでいく。

 給料もどんどん増えていって、身に着けるものは良くなってるし、綺麗な彼女が出来たって言うし……。


「こんなの、飲まなきゃやってられねぇよっ!!」



 立ち飲み屋を出て、フラフラとコンビニに寄る。

 店の奥にある冷蔵庫から、追加で飲むための発泡酒を手に取る。


 俺のいつものチョイスは、プライベートブランド。


 ジェネリック品ってわけじゃないけれど、安く扱われているヤツだ。



 安いのだけれども、俺はコイツの中身が良いって知ってる。

 信頼のおけるヤツなのに、パッケージに費用を掛けないようにしたり、流通経路を工夫して安くした結果、格下に見られてしまうのだ。


 頑張って努力して結果を出したっていうのに、安く見られるなんて損な役回りだよな。俺と似てるよ……。


「お前だって頑張ってるんだよな……」



 そう思うと、買わずにはいられなくて、いつもこればかり飲んでいる。

 独り身だから、俺にもある程度の金はあるけれども、コイツと一緒に飲みたいんだ。

 ただそれだけ。


 レジへもっていくと、いつもいる店員の女性が対応してくれた。



「……今日もコレっすねー」


「あぁ……? これで悪いか!?」


 いつも寄っているコンビニだから、顔を覚えられているのか、俺に慣れ慣れしく話しかけてくる。

 それ自体は怒る内容じゃないのだけれども、今は明らかにプライベートブランドを嘲笑うような言い方だった。


 この女店員……。



「あ、違うっすよ。これも良いお酒って知ってますよ」


「ならいいだろ。俺が何を飲もうが勝手だろ! 安い酒だからってわけじゃねぇよ。金はあるんだ、これが好きで飲んでるんだよっ!!」



 今の俺は、何をされてもすぐにキレるだろう。血の巡りが良くなって、血の気が多くなってるんだよ。

 一番大きい札を置いて、すぐにその場を去る。



 金じゃないんだよ。

 コイツが良いんだよ……。


 そのまますぐにコンビニを出て、フラフラと近場の公園へと向かう。



 深夜の公園は飲み直すには良い場所だ。

 誰もいなくて、静かで。夜風に当たりながら飲めるのは、気持ちがいい。


 ベンチに腰かけて、すぐに缶を開ける。


「誰もかれも、俺みたいなやつの良さは分かってくれないんだろ……」



 現実を振り払おうと、グビグビと缶の中身を身体へと流し込む。

 ひんやりとした冷たさが、体中を駆け巡り、血液に混ざり合って、最終的には俺の頭も一緒に冷ましてくれるようだった。


 冷えたビールが一番うまい。



 一本飲み終わると、酔いが回ったのか、座っていられず横になった。


 深夜の公園のベンチ。

 こんなー通りも無いところだと、誰にも迷惑にならないだろ……。



 つい、うとうとしてしまう。



 ◇



 夢の中なのかどうか判断がつかないが、誰かが俺の元へとやってきたようだった。


「こんなとこで寝てたら不味いっすね。ちょっと看病してやらねばっす。看病するには、あのコスプレしかないっしょ。一旦着替えてくるんで、寝て待っててくださいねー」


 そんな声が聞こえた気がしたが、俺の願望がそんな幻聴を聞かせたのかもしれない。

 世間はハロウィンだからな……。


 ナースなんかが看病に来てくれたら、嬉しいけどな。

 そんなこと、起こるわけないか……。

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