第2話 マルチタスカ―。俺は語りながら努力する派
俺はブサイクだ。
――これはもう前回で十分説明した。
それゆえに、今回は俺の「武器選び」について語らねばなるまい。
世の中の男は剣を持ちたがる。
剣はかっこいい。キラキラ光る。女の子に「キャー素敵!」と言われる。
だが俺が剣を持つとどうなるか。
「キャー!不審者!」 ……同じ「キャー」でも意味が天地ほど違う。
不審者に転ずる覚悟はいつでもできているが、まだ早い。
一話完結型の主人公に成り下がるつもりは、まだ無いのだ!
それはともかく、槍はどうだ!?
リーチが長くて強そうだ。
だが俺が槍を持つと、
ただの「物干し竿を盗んだ貧乏人or伝説の釣りキチ」にしか見えない。
弓?顎についている尻が邪魔だ。
万が一尻のほっぺに、
弓の弦でも擦りつけてしまったら魔王討伐どころの騒ぎではない。
ほぼまちがいなく転生してしまう。
魔法?俺が呪文を唱えたら「呪い」扱いだ。
闇の大魔導士にあこがれんこともないではないが……。
つまり、俺に合う武器は存在しない! ――そう思っていた。
だがある日、裏山で拾った一本の木の棒が運命を捻じ曲げる。
「ぶんっ」 ……しっくりきた。
いや、しっくりどころではない。
まるで俺の顔面と棒が共鳴しているかのようだった。
「お前は俺だ」 「いや、お前こそ俺だ」 そんな会話が聞こえた気がした。
そう、棍棒こそが俺の武器だったのだ!
棍棒の良さを語らせてもらおう。
安い。
剣は鍛冶屋で金がかかる。
棍棒は山に行けばタダ。俺の財布に優しい。
壊れにくい。
剣は折れる。槍は折れる。
棍棒?折れても「新しい棒拾えばいいや」で済む。
似合う。
これが一番大事だ。
俺の顔面と棍棒は同じカテゴリーに属している。
「泥臭い」「庶民的」「雑」。つまり親和性100%。
俺は棍棒を握りしめ、毎日振り回した。
朝から晩まで、時に尿意で目が覚めて寝られなくなった夜中にまで。
「ぶんっ、ぶんっ」。
村人は言った。
「あのブサイク、ついに気が狂ったか」
だが俺は気にしない。狂気と渇望は紙一重だ。
修行の成果はすぐに現れた。
ある日、村の子供が泣きながら駆け寄ってきた。
「おじいちゃん!犬が畑を荒らしてる!」
おじいちゃん……十九歳にしておじいちゃん呼ばわり。
せめてそこは、おじいさまだろ。
まあいい。
俺は棍棒を担ぎ、畑に向かった。
そこには凶暴な野良犬がいた。
「わんっ!」
俺は棍棒を振り下ろした。
「ぺちっ」 ……犬は逃げ、村人は拍手する。
「ブサイクさん、ありがとう!」
俺は悟った。
棍棒は人を救う。
俺の顔は人を不安にするが、
棍棒は人を安心させることもできる。
さらに修行を重ねるうちに、俺は奥義を編み出した。
名付けて「小指デコピン」
棍棒を使わず、小指でデコピンするだけ。
「ぴしっ」 小石が割れた。
「ぴしっ」 大木が倒れた。
「ぴしっ」 ……空気の振動で隣の家の窓ガラスが割れた。
まさか、隣人にガチで怒られることになるとは……。
だが俺は確信した。俺の小指は棍棒を超えた。
とはいうものの、棍棒道も、まだまだ追究する。
――修行は孤独だった。
父は「またあいつ棒振ってる」と呆れ、
弟は「兄上、もう少し普通の趣味を」と心配した。
だが俺は笑った。
『普通のやり方で世界最強になれるかよ』
俺はブサイクだ。
だが棍棒を振るうときだけは、
世界のベスト100万に入る位は輝いている気がした。
……まあ、周りから見れば
「バーコード頭のブサイクが棒を振り回している」だけなのだが。
こうして俺は棍棒を愛し、棍棒に愛されるようになった。
剣士でも槍使いでも魔法使いでもない。俺は棍棒使いだ。 いや、棍棒そのものだ。
俺の哲学はこうだ。
『ブサイクが相手でも、棍棒は裏切らない』
今日も俺は棍棒を振る。
「ぶんっ、ぶんっ」
村人は遠巻きに見ている。 だがいい。俺は知っている。
この棍棒こそが、俺を世界最強へと導くはず!
――と思う今日この頃であった。
《――でもそういえば奥義は棍棒関係なかった。と思う今日この頃でもあった。》
俺はブサイクだ。~棍棒とバーコードと世界最強~ 茶電子素 @unitarte
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