私が秋空を見上げるとき

小林汐希

第1話 放課後にいつも寄る場所


佳織かおり、今日みんなでハロウィンパーティーの買い出し行くんだけど、一緒に行く? てか、当日来れる……?」


 クラスメイトの木村あずさちゃんが私、前原佳織に声をかけてきた。特に最後の部分は少し最初から諦め入っているようだけど……。


「ハロウィンかぁ……。もうそんな時期だね。みんなで楽しんで買い物してきてね。私はその日は予定ありだから」

「そっか。佳織に来てほしいってリクエストも多いんだけどなぁ……。でも予定ありならあたしから言っておく」

「あずさちゃん、ありがとう。気を遣う役目でごめんね」

「いいって。佳織には佳織の予定があるんだからさ」


 彼女は私の肩をポンと叩いて手を振って教室を出ていった。


 彼女はお見通しなんだよ。私がその日にパーティーをする気持ちにはなれないと。


 毎年誰かが私を呼べるかの重責を担って声をかけてくることくらい、いくら鈍い私だって分かっている。


 ダメだったかという声が聞こえてきそうだけど、そこは話し上手な彼女のことだから任せていい。


 誰もいない教室。スクバを肩にかけて私も下駄箱に向かう。


 昔は夏休みの後に少しずつ気温が下がって過ごしやすい日々が続く秋になった。金木犀の香りがする大好きな季節なのだけど、最近は夏の暑さが続いたと思ったら、パチンとスイッチが切り替わるように気温が下がって、慌ててベストやセーターを探すような忙しい移り変わりだ。これも地球温暖化なんだろうなと理科の時間の話を思い出しながら通学路を歩いていく。


「ハロウィンかぁ……。私には一番縁がないイベントだ……」


 正確に言えばハロウィンだけじゃなくて他のイベントも同じなんだけど。お正月の初詣とかは私も無碍に断ることはない。スケジュールやメンバーの条件がよければ一緒に行くこともある。


 学校から家までは歩いて十五分ほどの道だ。


 でも私は真っ直ぐに進めばいい道を逸れて住宅街の児童公園に寄る。


 大通りから外れて人目もずっと少なくなる。


 そう言えば、最近は金木犀だけでなくて銀杏いちょうの葉やその実である銀杏ぎんなんも見なくなったなと思う。


 桜もそうだ。昔はあちこちで見られたのだけど、管理が大変だからと、今は限られた場所でしか見られなくなったっけ。


 私が通学路を外れて寄った児童公園。誰もいないその公園のベンチの一つにスクバを置いてその隣に座る。


 この公園にも昔は立派な銀杏の木があって、毎年秋には見事な黄金色に染まっていたんだよ。


 そう、あんなことがなければ、まだその木は立っていたかもしれないんだ……。

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