季刊誌リリ取材班 糸瀬研士郎

成城諄亮

第一章 寿琴大精霊祭

第1話


 若干十七歳の少年Aは言った。寿琴山じゅこんやまには、 “本物の精霊が住んでいる” と。


寿琴地区で白骨化した遺体を見つけたのは、若干十七歳の少年A氏。当日は、寿琴地区で五年に一度開催されている、寿琴大精霊祭に向けての準備が行われていた。この祭は、寿琴地区に住む十二歳の少年三人が、夜中のうちに精霊に攫われ、寿琴山へと連れて行かれるところから始まる。連れ出された男子三人は、四十八時間の間に寿琴山からの脱出、及び祭会場への到着が求められる。仮に遭難したとしても、男子三人に持たせるGPS装置により、制限時間後に助けられる仕組みとなっているが、その仕組みが作られたのは、ここ十五年ほど前の話である。今まで遭難する人がいなかったわけではない。過去、同じように精霊に攫われ、遭難した十二歳の少年たちは、現在までに二十三人も確認されている。この祭は今年で五十二回目の開催であり、五年に一度、少年が一人ないし複数人は寿琴山から忽然と姿を消していることになる。そうなると、倫理的問題に発展しかねない。そこで我々取材班はこの祭会場を訪れ、関係者への接触を試みることとした。


 ここまでの文字を入力し、パソコンから天井へと視線を移した。ブラインドが下ろされ、外を伺い知ることができない窓。周りに誰もいないデスクが並ぶエリア。ポツンと付けられた蛍光灯。ブルーライトが、糸瀬研士郎の黒縁眼鏡で反射している。

 時計を見る。深夜一時だった。どおりで周りは暗いわけで、誰もいないわけだ。糸瀬は散らかったデスクの上に突っ伏す。そして、しばらくの眠りについた。


 丑三つ時、寿琴地区全体に響き渡る和太鼓の音。ぞろぞろと歩き出す人の波。祈祷師によって持ち運ばれる、藁でつくられた大きな一体の精霊像。近くを流れる小川を、南へ、南へと流れていく舟。それを眺め、見送る大人たちに紛れた、若干十二歳の少年たちは、血がべったりと付着した口角を上げる。

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