第8話 魔女の職務を終えた日

四日後、ゼノが再び私の家を訪れた。


「君の今後について、政府の対応が決まった。」


そう言って、医療院での告知を受けてから今日までの間に、政府で決まったことの報告をうけた。


私は今日限りで瘴気浄化の職務からは外されることになった。それにあたって、今まで担当していたエリアの引き継ぎを新人魔術師に行うこと。期間は一週間。そしてその引続きが終わり次第、この世界での魔女の役目を終えるようだ。


「そして、これが一番重要なのだが、君は引き継ぎ完了後から指定のホスピスへ行ってもらう。場所は『アーク・ヴェイル』だ。――国の決定だが、君が静かに過ごせるよう、私が王から特別に認可を得た、湖畔の離宮だ。」

「それって、ゼノの家の近くよね?」

「そうだが。」

「最後の最後まで私の管理なんて、ご苦労さま。」

「嫌味か?」

「どうかしら。私のこの部屋はどうなるの?」

「後任者が住むことになると思うが、嫌なら俺が後任者に別の場所をあてがう。」

「ううん。問題ないわ。死にゆく私に帰る場所なんて必要ないから。」


また皮肉を言ってしまった。最後くらいは監視されることなく、自由に生きられるのかと思ったが、そこまでこの世界に転生したという事実は甘くなかったようだった。


私への報告を終えたゼノは、ティーカップの紅茶を全て飲み干す。


彼は立ち上がると、一瞬、私のひどく痩せ細った腕に視線を落とした。その視線には、わずかな動揺と、それを押し殺すような冷たさが混ざっていた。そして、私に背を向け、事務的に言い放った。


「二日後にカインという男を連れてくる。それが君の後任者だ。まだ18で若いが、素質はしっかりとある。そいつにちゃんと引き継ぎをしてやってくれ。」

「分かったわ。」


そう言うと、ゼノは家から出ていった。


ゼノが後任者を連れてくる前日に、森の精霊達に事情を説明しにいった。どの精霊も「あらあら」「うふふ」「大変ね」と相づちを打っていた。特別悲しそうな素振りを見せなかったことが私的にも心持ちが良かった。そして一番お世話になった精霊には「あなたが素直になれますように」と言って帰り際におでこにキスをされた。私が「ありがとう、ずっとあなたに助けられていたよ。」と素直にお礼を言ったら「その調子。」とウィンクをされた。


ゼノが来て二日後、後任者がゼノに連れられて私の元を訪れた。

太陽のように陽気で明るい青年で、犬のように人懐っこい性格をしていた。


彼に一週間みっちりと報告書の書き方、精霊達のこと、瘴気浄化に使用する特殊な魔導具の手順、その他瘴気浄化業務の全てを継承した。


それと同時に身辺整理も行った。いわゆる終活というやつだ。今の一人暮らしの部屋で不要なものはどんどん捨てていった。元々物が少ないほうなので苦労はしなかった。ただ後任者が使用できそうなものは部屋の中に残しておいた。 そうしてホスピスに持っていく荷物をまとめるとトランク1つになってしまった。


そうしてあっという間に時間が過ぎていき、私がホスピスへ行く日となった。


朝一でゼノが迎えにきた。


「君、荷物はそれだけか?」


ゼノは私のことをじっと見たあと、「持とう。」と言ってトランクを持ってくれた。 正直こんな荷物でも持つのがしんどくなっていたのでありがたかった。 ゼノと馬車に乗り込むと、すぐにホスピスへ向かって出発した。 馬車の窓からぼんやりと流れる景色を眺めた。

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