第1話 最後の日
駅のホーム、先頭で電車を待っていた。
退勤時間のラッシュと重なって、ホームは人でひしめき合っていた。
隣には、ベビーカーに赤ちゃんを乗せた母親らしき女性がいる。時折子どもからの熱い視線を感じたが、目を合わせたところでどんな対応をしたらいいのか分からず、私は無視をしていた。
もうすぐ電車が入ってくるとアナウンスが入る。 いつもどおり、ホームの端で足にグッと力を込めた。
その瞬間、ドンッと鈍い音がして、隣にあったベビーカーがホームから線路に落ちた。
「きゃああああ!」
母親の悲鳴が、喧騒を切り裂く。
近くにいた男性が「ベビーカーが落ちた!非常停止ボタン!!」と叫ぶ。
世界が、ぼんやりとゆっくりと進む感覚がした。
次の瞬間、私は何を考えていたのか、瞬時に足の力を弱め、無造作に線路に飛び込んでいた。
母親の悲鳴や、人々の怒鳴り声が、遠い場所で響いている。私は、火事場の馬鹿力のような、どこから湧いたのか分からない力で、ベビーカーごとホームに押し上げた。
私自身もホームに上がろうとしたが、ここで全ての力が尽きたのか、足に力が入らない。
全身が重い鉛のようだった。
遠くから、ホームに入ってくる電車のライトが、強い光で私を照らす。
眩しいな――
私はそう目を瞑った。
私の転生前での記憶は、そこで途切れた。
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