第30話 第一章(続き)
遊ぶ相手を見つけられなかった時、どういう訳かオレを抱きかかえて家の中を見て回る。何すんだーと不満たらたらもがいていたが、身体が無意識に逃げ出そうと激しく反応してないところを見ると、長らくこうして来たに違いない。され慣れてる……そう気が付いた途端、一人でいるのが怖いからだと腑に落ちた。
後ろ足がビロンと垂れて腹丸出しの情けないスタイルで家中歩き回る愚行を、オレは即行許すことにした。といっても、もがくのを止めて無抵抗になっただけだ。うん、一緒にいてやる。不安を解消する子どもなりの行為に四の五の文句をつけるほど、オレはガキじゃねえ。ふんす
そうして、ご苦労なことに三階まで全部、家中の様子を確認し戸締りやカーテンを閉める作業を終わらせると、やっと落ち着いた顔になったボクちゃんはリビングに戻る。ソファー前のローテーブルからリモコンを取り上げ、テレビを点ける。そこまで終わってからはじめてオレを手放すと、テレビの前にしゃがんでなにやらごそごそし始める。ビデオを観るかゲームで遊ぶか。
さて、離してもらったオレはどうしているかというと、基本、黙って見守っている。近くにいてやるのが大人ってもんよ。ふんす。だけど、リモコンがローテーブルの定位置に置かれていることを確認しちゃったので、いずれ一人の時テレビを観てやろうと決意している。ふっふっふっ
ゆえに、どんなに僅かな待ち時間でも、今からレッスンに余念がない。ローテーブルを前に立ち上がり、後ろ足で体を支え、片手でリモコンを押さえてもう一方の手で操作をば……よっはっ。この小さいお手手をもっと器用に動かしてやる予定なのさ。
それで、何するか? って、テレビを観るに決まってるでしょ?
ボクちゃんがいる時にレッスンすると、いつも途中でリモコンを取り上げられてしまうが、めげずに練習練習。やり過ぎない程度に収めておかないと置き場所を替えられてしまいかねないが、今からテレビを点けるのと消すのを自分で出来るようになっておかないと、テレビを観ているという知性的? な行為があっという間にばれてしまうからね。ふふふん
って、それは置いておいて。ボクちゃんはテレビを点けたからといって何か番組を観ているわけではない。大抵、任天堂の最上位機種を繋げてソフトを仕込むと、何だか見たことのある絵面のTVゲーム(よく知らん)をかれこれ一時間ほどやる。それから、テレビ画面は音楽番組の録画をつけっぱなしにし、携帯ゲームに興ずる。
ゲーム中はオレを放置してくれるので、ごろんちょとラグの上に転がって毛並みのお手入れに余念がない。とはいえ、ボクちゃんを心配する気持ちは止まらない。勉強はしないのか? 宿題はないのか? せめて漫画でいいから活字を読めよ。ったく。後で苦労するぞ。と考えつつ、塾通いだった自分の子ども時代を嫌って、まあいいかと諦める。じぃっと見詰めたところで、通じるはずもないしね。
そうこうしている内に、お父さんが帰宅して夕食を作り始め、やがてお母さん、部活のあったらしい次男と帰宅し、家は賑やかになっていく。土日だと、長男が帰宅することもある。みんなリビングでゴロゴロしているボクちゃんの頭を一撫でするのを忘れない。
夕食づくりは、仕事から帰って来る時間の早いことが多いお父さんに、概ね任せているようだ。朝は大体お母さん? そうでもないか。何やらシフトが早朝深夜であることも多いお母さんは、帰りに買い物をしてきたり、お父さんと決めた作り置きの料理を冷蔵庫に入れたりと、スキマチックな家事協力のようだ。なるほどね~
ともかくお父さん以外の人の帰宅時間はまちまちなので、彼は帰宅後すぐに料理を始め、家族分を用意すると、ボクちゃんと二人で静かに食事をとる。食事時はテレビを点けないルールでもあるのか、男二人の夕食は静かに素早く終わって仕舞う。次兄がいれば、もう少し会話があるような気もするが、兄弟間で喋っている雰囲気だな。
ふむ、男親なんてこんなもんか? お喋りな父親とか想像もつかんが、お喋りに関しちゃ個人差はあっても性差はなかろう。オレ、子持ちだったら案外一人で喋ってたかもしれないな……ま、考えても仕方ないか。はあ
続く
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