第16話 第一章(続き)
男の子ってのは、力のやりどころにいつも苦労する。ジェンダーとかなんとか言ってるけど、生まれた時から骨格に差があるんだから、肉体的な性差ってのは厳然と存在する。みんなみんながそういう訳じゃないという人がいるかもしれないけど、そうでなきゃ、幼少時の多くの男の子が経験するあれらの破壊行為を説明できないじゃん? まさか、生まれた時からの乱暴者だけがそうなるとか暴論言わないよな?
実際、少年期のオレにも記憶があるぞ。自室の壁を穴だらけにしてはアイドルのポスターで隠しまくったもの。はがしたら母ちゃんなんて失神すんじゃね? だって、塀を蹴り壊した時なんか、正座させられて長時間怒鳴られたし。多くの男児は、人に当たり散らさない場合、家やモノに八つ当たりする傾向が顕著だと思うぞ。
まあ、だからこそ、小さい時から何かスポーツをさせる親が多いんじゃないかと、オレは思ってる。オレだって物心つくとすぐ近所の合気道教室に通わされたもんな。親からしたら近所にあったのがそれってだけで、きっと何のスポーツでもよかったんだろうね。要は、余分なエネルギーはそこで発散してこい方式だ。
なるほど、そう考えれば、このボクちゃんのマウンテンゴリラ方式は、自傷と言っても死に至るようなものではなくて、第三者から見れば非常にコミカルな方法だ。何かスポーツしているかもしれないけど、それで発散出来ない場合もあるもんな。人も物も傷つけないとは、オマエ、なんていいやつなんだよ。ただ、青あざができるってことは、中々にハードなやり方ではあるけどな。ぷっ
こんな子を育てた家に住むのなら猫も悪くないかも。楽しそうだ。
そんな風に考えながら、小さいボクちゃんが胸を打つのを面白がって目にしている時は、まさか愛しさで胸がいっぱいになるとは思いもしなかった。恋か? って違う違う。親の経験がないから、なけなしの父性が音をたてて目覚めたような感じだ。
その面白い仕草はなんだと首を傾げて見上げる
「お父さんとお母さんが一生懸命働いたお金で買った家だから、ぐすぐすっ、傷つけちゃいけないんだぞ。分かってんの? うぐぅ、お前も壁を爪とぎにしたら叱られるだろ? だからさ、ぐすん、ボクちゃんだって家や家具に八つ当たりはしないんだもん、ズルン」
べそをかいて、ついでに鼻水も垂らしているから、何だか正論でもイマイチ言い訳のように聞こえる。だが、この後の台詞でオレはすっかりこの子の虜になった。
「ボクちゃん、見て知ってるもん。上の兄ちゃん達が、前に殴ったり蹴ったりして壁に穴を開けちゃった時、お父さんもお母さんもすごく悲しそうだったもん、うぐぅ」
そういいながら、ボクちゃんの目からは再び涙が溢れた。え? やだ、めっちゃ
「ふぇぇん……ボクちゃんは兄ちゃん達みたいに、絶対しないんだもん」
顎まで滴る涙をごしごしこすっては胸を打ちつけるボクちゃんのトレーナーは、袖口が鼻水やら涙やらでツルテンだ。昭和の小僧かっ⁉ つっこみをいれながらも、その愛嬌に、オレはすっかり
チクショー、なんてかわいいヤツなんだよ。死ぬまでここにいて、コイツの行く末を見たいじゃん。猫だ。どうせ後十年も寿命はないだろうし、その頃にはコイツも成人しているだろうし。あうっ、楽しみで仕方ないぞ。
それに、きっとマウンテンゴリラだけじゃない。何やらかしてくれることやら。
この時から、オレはボクちゃん命の猫になった。うるさい! カワイイと思っちゃったものは仕方ねえだろっ!
続く
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