第11話 第一章 ◆マウンテンゴリラぁ?
★マウンテンゴリラぁ?
当面、この家に居座ることにはしたものの、霊体のオレは案外所在ないんだよね。慣れない家だから仕方がないけれど、中々腰を落ち着けられる場所がみつからない。幽霊が現実的に座れるかどうかも分からないし。そもそも幽霊って睡眠や休憩が必要なのかとも思うが、それはそれ。
仕方ないので初めての場所に連れて来られた猫よろしく、うろうろと彷徨(さまよ)った。
そう大きくない家だから、間取りはあっという間に把握できた。子どものころのⅭⅯにあったように、〈都会に二階はもったいない〉で三階建ての上、隣とくっついている長屋構造だ。空間に無駄のない構造ともいう。その代わり、駐車場や駐輪場、中庭などの共用スペースをゆったり取ってあるようだ。
確か今風の洒落た言い方があったような気もするが、分からないのでスルーだな。要はそういう作りの家だということだ。きっとあれだ。昔は広い敷地の大きい家があったが、税金やなんやかんやで売りに出し、分譲販売されたやつだ。オレの拙い不動産の知識からしたら、都会ではそういう家が多かったはずだ。
おそらくこの家も遺産として引き継いだのではなく、夫婦の力で購入したものだろうと、予測した。うん、きっと元は地元民(じもちー)じゃないとみた。ま、そこは判断保留にしおくとしよう。何処出身の人でも何の不都合もないからね。オレ自身が地方出身ということもあるが、理解出来ないような習慣があるならともかく、出身地で人の魅力は語れないと思てるからな。
ともかく、長屋タイプなので隣の音は何となく聞こえる。長屋の割に広い構造だとも思えるが、犬の吠え声が微かに聞こえる。隣じゃなくて何軒か先の家で飼っている犬の声なら、それなりに騒音かもしれない。何しろ今は真夜中だからなー。もっと聞こえたところで、騒音公害を訴えるべきはこの家の住人であろうし、霊体のオレに睡眠の妨げになるほど響くことはなかろう。
そもそも、幽霊が毎日寝る必要があるのかどうかも分からんし。今時らしく、どこの家もペットがいるんだなーくらいなもんだ。ここん家が猫ってだけ。ふむ……
おじさんが疲れたように風呂に入ったり、軽食を取ったりしているのを暫く見ていたが、直ぐに飽きて別の欲求を満たすことにした。先ずはどういう人が住んでいるのか把握しておきたい。幸い、霊体とは便利なもので、家の中を回るのもあっと言う間なら、周囲の状況を把握するのもあっと言う間だった。
寝室で眠っている人を見る限り、妻らしき人の他に男児が二人いる。四人家族ってことかな? 典型的な家族構成じゃん。待てよ、表札は五人だったような? まあいい。人柄は起きてこないことには分からないわけだし、今は一緒に住んでいる人員ともう一人いるかもしれないと分かったことで満足しよう。家族構成は四人か五人のどっちかだ。うんうん
ふむ。暗い時間帯なので、幽霊であっても室内を物色するには適さないようだ。幽霊なら明暗は関係ないと思ってたのに、残念だなー。お蔭で、あっと言う間にすることがなくなった。(暇だなあ、どうしようかなあ)と、ぼーっとしていたら、いつの間にかどこかの部屋で目覚まし時計が鳴っているのが聞こえた。
あれ? おじさん、いつ間に寝たんだろ。そんな物音にも気づかないとは、恐れ入谷の鬼子母神、って、江戸っ子じゃねーし。生前こんなこと言ったことねーぞ。なのにするっと出て来やがった。なんでだ? 前世の記憶かしらん……ごほんごほん。
ともかく時間経過を感じない内に朝になっていたようだ。
続く
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