なぜ、あなたはいっちゃったの?

@kyasubaruremu3456

第1話 異変

「おおい、もう赤城が休んで一週間だな。なんでか知ってる?なんか連絡取れなくて。」

 姉小路は、エンジンの部品のネジを締めていた。

「もうそんなに経つのでありますか。不肖、姉小路 最後見た時、涙が出ておりました。恐らくではありますが、花粉症ではないかと。」

「え、この時代、花粉症なんてあったのか。もうなくなったのかと思ってた。」

 姉小路はネジを締め終わり、完成した部品の採寸を確かめていた。

「はい、花粉症対策のOシリーズが効かない人もまだいるようであります。」

 知らなかった、だけど、じゃあなんで花粉症対策してなかったのかな?まあいいや。

「じゃあ帰りによりますか?霧島もくるやんな。」

 霧島はフェアリングの構造を開いていた。動作確認をしているようだった。

「ごめん、この確認だけしたいから遠慮しとくよ。」

 まあ仕方ないか。

「じゃあ、行きますか。」

「了解致しました。」


 赤城の家、始めてきたな。

 ほんとに普通の家だな。別に豪華なわけでもなく、何もない普通の家だ。

 姉小路は銭湯で油臭さを流してから来るようだ。

 女子の家に行くのに油のにおいを纏うのは些か失礼だ、と言っていたが、確かにそうだ。

「こんにちは、統合文化部ロケット班秋月と申します。涼香さんいらっしゃいますか?」

 奥から出てきたのは、お姉さんだな。きれいな人だな。

「こんばんわ。わざわざ来て下さりありがとうございます。さ、どうぞ上がってください。」

「あ、え。」

手を取られたと思ったら、もう玄関の中だった。

 すごい腕力だ。勢いのまんま赤城家へ上陸してしまった。

「妹さん、お元気ですか?」

「あら、私、母親なんだけど?若作りしすぎてるかしら?」

 え、もう四十くらいなのにこの若さというか、生き生きしてるのか。

「いえ、とても若々しいと思いますよ。ほんとに。」

「お世辞がうまいですね。」

「いえいえ。」

 階段を上がってる、結構整理されてるな。

棚に植物がある、盆栽かな。

この時代、盆栽なんて芸術家しかやってないと思ってた。

案外できるものなのだな。

「最近、涼香が少しおかしくなってて、心配してくれたんでしょ。ほんとありがとね。」

 ん?花粉症じゃないのか。

「あの風邪か何かではないんですか?」

「それがね、なんか突然、部屋に籠っててね。私が顔を出すとロックをかけちゃうの。」

 一体どういうことだ。

 ついた。壁には本棚がある。ドフトエフスキーの戦争と平和がある。

 ドアは普通のオートロックのやつだ。白いな。

「涼香、涼香、ロケット班の秋月さんが来てるわよ、開けなさい。」

 

反応はなし、か。

「あ、寝てたら、全然また来ます。」

 

「無視してるだけなんですよ。多分お友達に解決してもらった方がいいから。」

 お友達、か。自分はそう認識されてるのか?

「涼香さん、秋月です。開けてもらいませんか?」

 

 戦局かならずしも好転せず、といったところか。

 

 ピンポーン。

 不肖 姉小路 雅鷹と、言うものであります。涼香殿のお見舞いに参りました。


 一瞬、空気が凍った。

「あ、お知り合いですか?」

 姉小路よ、確かに士官学校出だから仕方ないけど、外では収めろ。

「あ、はい。ロケット班で一緒にやってます。入れたって下さい。」

 

 すぐに私の奇妙な友人が来た。

「ただいま推参致しました。」

 

 この戦局を好転させるには、これしかないか。

「姉小路、ここのドアのロックを解除しろ。」

 姉小路はすぐに母親の方に聞いた。

「ただいまから涼香殿の部屋のドアロックを解除しますが、よろしいでありますか?」

「やってください。私よりもあなた方の方が動くと思いますから。」


「これよりドアロックを解除致します。」

 姉小路はPCを取り出して、ドアの挿入口に線を差し込んだ。

 すると、すごい勢いでコードを解析していった。

 二分後。

「ただいまロック解除致しました。」

「入りますけど、いいですか?」

「私、下言っときますね。何か欲しいものがあったら遠慮なく言ってください」

 そういうと、お母さまが下に行った。

「赤城よ、入るぞ。」

「失礼するであります。」

 ドアを開けた。何か、こう甘い女の子の匂いがする。

 部屋は普通の白い部屋だ。クマのぬいぐるみが置いてある、大きめのやつ。

そして赤城は、椅子に座っている。ずっと空を見ている。

「来て・・・くれたの?」

「来たよ。」

「推参しました。」

 何か、気まずいな。無理やりドアこじ開けたんだしな。

「ボードゲーム・・・する?」

 

「あ、はい。」

「はい。」

「ハモッ・・・た?」

 笑った。


赤城がゲーム盤のカードを広げ、空母や潜水艦を配置している。

 何か間違ってる気がする。これをしに来たわけじゃないんだが。

「あのさ、なんで来ないの?」

「つ・・ぎ。君の番。」

「あ、はい。」

 これはボードゲームだ。

 太平洋を舞台に米武装警察と東京条約軍が戦う、といった内容だ。

 そのために空母、潜水艦とかを展開して本拠地を占領するゲームだ。

 まあ、今、アメリカは警察という名の軍隊を持っているから奇妙に見える。

「赤城殿、嫌であればいいのでありますが、なぜ声が干からびているのでありますか?」

 確かに、いつもこんな不思議ちゃんじゃない。声がしっかりしてて、元気な女子高生だ。

 赤城は攻撃カードを出して自分の空母を沈めた。

「あ、やられた。」

「それは・・・ね。泣いてたから。」

 赤城は潜水艦の駒を進める。

 姉小路は対潜ヘリ空母を展開させた。

「失礼を承知で聞きますが、なぜでしょうか?」

 赤城はそこに待ってましたとばかりに戦闘機隊を発進させ姉小路の展開していた対潜部隊に打撃を与えた。

「つい・・・最近まで、ここで・・・これで・・・遊んだ。」

 え、何言ってるの?

 困惑している間に赤城は潜水艦部隊を進めた。

「のぶ・・・あき君と・・・つい最近まで。」

 え、霧島とか。

「霧島殿と付き合っていたのでありますか?」

 姉小路は対潜部隊を立て直して、反撃した。

「・・・うん。」

 自分は、このゲームで本拠地を失っていた。

「ずっと・・・一緒・・・・・思ってた。」

 赤城は姉小路の部隊が遠い洋上にいる間に本拠地の大陸に上陸をかけた。

「視界から・・・消えて・・・言われた。」

 上陸部隊は本拠地を完全に占拠した。

「・・・終わり。」

 姉小路はいつもの口調で言った。

「負けましたな。また、元気になり次第また来てほしいであります。」

「心・・・整理・・・できたら。」

 自分、姉小路そして赤城とボードを整理した。

「あり・・・がと。おもい・・・だせ・・・た。」

 

 自分と姉小路はそのまま家を後にした。

 この通りはいまだに電柱がある。ただ、無機質に電線が上に散らばっている。

「私にはできないであります。秋月殿にお任せしてよいでありますか?」

「難しい宿題だな。」

 姉小路のコートは、士官学校時代のままだ。

 片手を失って復元中の身で、今は我が帝国高校にいる。

 卒業したら、宇宙軍大学校を受けるらしい。

歩きながら、それを思い出した。電灯がつき始めた。

「私は軍人であります。なので、こういったことが、苦手であります。」

 自分は、こういったことには不向きだがやるしかないか。

「わかった、難しい宿題をやってやろう。」

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