鼓動の旋律、愛の詩

月詠萩花

1話 黒髪少女の密かな恋心

 桜が満開を迎え、新生活シーズンが本格化し始めた頃のこと、青藍彩音せいらんあやねは高校の入学式へ向かう準備をしていた。

『異性が苦手だから』という安直な理由で女子校を受験した――なんて口が滑っても言えない、そのようなことを考えながら真新しい制服に袖を通していく。

「今日から始まるのか……」

 さっきまで考えていた邪念を払うかのように気持ちのスイッチを切り替え、荷物を持ってリビングへ向かうと厚化粧をして派手なスーツを着ている母親がいた。

「お母さん……変なところに気合い入れないでくれる?」

 彩音は呆れた顔でメイク落としシートを広げ、「親が新入生より目立ってどうするの……気まずくなるだけだからやめてくれる?」と小言を言いながら母親の厚化粧を全て落とした。

 家からほぼ目と鼻の先の距離に学校があるとはいえ、時間に余裕を持って行くのがマナーというもの。家を出る時刻から逆算すると親が化粧をし直す時間はほとんどない。

 入学式は9時からだが、入学説明会のときに『遅くても10分前には学校に到着するように』という案内があったことを思い出し壁掛け時計を見ると――8時30分を指していた。

 彩音は 「先に学校行っているから来るときは薄化粧でお願いね!」と言い残し、玄関鏡の前で乱れた髪を櫛で整え、学校へと向かった。

 

 校門をくぐると係員によって教室へ案内される。いかにも女子校という雰囲気の漂う校舎内を見渡していると遠くからでも分かるほどの茶髪の生徒が目に入った。本来なら「黒染めしなさい」と指導されるはずなのになぜ何も言わないのか――。

 

 式の時間になり、講堂へ入場し席に座る。

 視線の先にはさっきの生徒がいた。もうのことが頭から離れない。

 ――これが、恋というものなのか?


 それは彩音が今まで感じた経験のない『恋愛』という感情だった。

 

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