転生お嬢さん商人の冒険漫遊記
あるる
第1話 転生? だが拒否する!
最後に覚えているのは自分に向かってくる圧倒的質量の塊と眩しいほどのライト。
よく走馬灯が過ぎるとか言うけど、そんなことは全くなく、綾乃の頭にあったのは「あ、やば」という他人事な感想のみだった。
冒頭でいきなり死んだ主人公こと、佐倉綾乃は何もない真っ白な空間にいた。
「ふぅん、これが死後の世界なのかな……それともアケローンの川とか、賽の河原みたいな中間地点?」
あえて声に出しているのは不安もあるが、現状を確認する上で独りきりだったことが大きい。綾乃は周りを見渡すが他に人影も何も見えない。
本当に自分は死んだんだなって納得すると共に、改めて自分の死を実感して、残していってしまう家族が気にかかった。
いつも苦労ばかりしている母に親孝行できなかったことだけが悔やまれるが、しっかりしている弟妹に後を託すしかないな、など思考が千々に乱れていた。
一通り良いことやら悪いことを思い出しては消えていくのを繰り返している内に、楽しみにしていた推しの案件配信が明後日だったとか細かい未練が色々出てきてしまう。
「もう推しの声が聴けないの!? しんどい……死んじゃう」
「お主の未練はそれしかないのか?」
綾乃の目の前には優しげな表情の老人が立っていた。全体的に白く、いわゆる『神様』的な真っ白で長い髭と長髪をしていた。
「うわぁ~ザ・カミサマ★」
「お主、軽いのお」
「なんというか、典型的なんだもん。不敬? 不快なら自重するけど、私も割と今荒んでいるの」
「まあ、良いが」
「さすが神様、懐深い! んで、私は地獄? 天国? 転生? 異世界転生はごめんしたいな」
「……本当に動じないなお主」
「テンプレだしね」
「どうせこんなもんでしょ?」と言わんばかりの綾乃の態度に思う所はあるものの、全てその通りなので文句も言えず、神はどうするべきか悩んでいたが、諦めたような重いため息と共に話し出す。
「お主に依頼したいのはワシの世界への転生と救済……」
「お断りします」
食い気味に言う綾乃に神も一瞬固まる。
「そういわず……」
「イヤ」
「ほれ、聖女とか」
「絶対無理!」
綾乃と神が「お願い」「イヤ」を繰り返して早や一時間、流石に二人共疲れてきてた。
「のう、なんでお主はそんなに聖女になるのが嫌なのじゃ?」
「嫌だけじゃ、ダメ?」
「ワシはお主にワシの世界を救って欲しいが、お主は嫌だと言う。
それならば、何が嫌なのか分からねば折衷案も出せぬであろう?」
「むー……それは、そう。」
綾乃はしばらくうんうん唸っていたが、神はちゃんと考えてくれている綾乃の真面目さが微笑ましく見えていた。ちゃんと綾乃が答えを出すまで待っていると、ようやく綾乃の中でまとまったようだった。
「ごめんなさい、お待たせしました。
まず、私が挙げる例は神様の世界の話じゃなく、一般的な話だったり私の知るフィクションの話だから、一例として聞いてください」
「承知したぞ」
「じゃあ、私が聖女を嫌な理由なんだけど、聖女ってたぶん教会とかのトップになるし、下手すれば政治権力者より権力を持つことになると思うんだけど、この前提あってます?」
「うむ、お主の言う通りじゃ。お主はワシの代理人のような扱いになるじゃろうな」
「ちなみに、使命を果たした後は元の世界に帰れます?」
神様の表情が瞬時に、困ったような苦しいようなものになり、綾乃でも簡単に察せられる。
「まあ、私、死んでるでしょうしね。
それは仕方ないし、神様悪くないんで、お気になさらず。
それでですね、問題は世界が平和になっても国のトップよりも偉い奴がいることがまずいんですよ」
神様の「何故!?」という表情に、綾乃は苦笑して続ける。
「だって、目障りじゃないですか、そんな人いたら。王様とかいるんですよね?
王様よりも偉い人がいるとか、自分の国なのにそんな人がいたら気を使いますよね?」
「だが、綾乃は権力に興味ないじゃろ?」
「はい、ないですよ。
でもね、人間は基本的に価値基準が自分になるから、権力を持つ人にとっては、私が何を言っても聖女には権力がある分、徐々に目障りで面倒になっていくんですよ。
使命を果たす前なら、世界救ってくれる人だからって尊重するでしょうけど、使命果たした後は目の上のたんこぶですよね。教会とかにしたって教皇より上に小娘がいるんですよ?
それに聖女の肩書を外したら、私はただの平民です。階級世界では底辺の方ですよ?」
がびーんと言わんばかりの表情になっている神様に綾乃も苦笑するしかない。
「だからですね、私は聖女は嫌です。
でももう死んじゃってるし、ひとつの世界が崩壊に直面しているって聞いて無視できるほどメンタル強くないので、転生するならどうすれば私がその世界で平和に生きて行けるか相談させてください」
「分かった。すまぬのう、ワシは安直に愛し子じゃ!とアピールすれば
誰もが大切にしてくれると思っておったわ」
「みんなが困っている時にお手伝いするだけなら、それでいいと思いますよ?
でも、私がそのままその世界で生きていくなら、ダメってだけです。人間は薄情なので、大半の人は時間経過と共に恩も忘れちゃうんです」
「世知辛いのう。分かった。では、お主はどうしたいんじゃ?」
そこから綾乃は神様と状況確認をすると共に自分の能力、制限、世界についての情報とどんな形で転生するのかなど細部まで詰めた。
また、使命を終えた後の話までキッチリ、バックストーリー含めて確認した。
地球での時間で言うと五日ほど過ぎた頃、綾乃は旅立つために必要なものを揃え、転生することになった。
白髪の老人の姿をした神、ラハミームの愛する世界「レヴ・ラフーム」は崩壊に瀕しているとは外からは分からないくらい、生命に満ち溢れている。
その片隅に綾乃は降り立つことに決めた。
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