第29章 お別れ



夜が明ける少し前だった。

雪がちらつき、街灯の光に溶けて消えていく。




病室は、いつもと同じ音を立てていた。

滴る点滴。

電子音のリズム。



その音が、リナの呼吸と一緒に世界をつないでいるように思えた。


シュンは手を握りしめたまま、

何度も小さく「大丈夫だよ」と呟いていた。

ユイは枕元でリナの頭を撫でている。






けれど、ある瞬間。

電子音が、ひとつだけ遅れた。

もう一滴、点滴が落ちる気配が途切れた。




扉が静かに開く。

看護師が入ってきて、無言で確認をする。

その背後から、白衣の医師が続いた。



モニターを見つめ、時計を見る。


短い沈黙。




「……お疲れさまでした」




そう言って、医師は深く一礼した。

誰も返事をしなかった。




ユイは動かない娘を抱き寄せ、嗚咽を漏らした。

シュンはその場に座り込む。




窓の外では、雪が降り続いていた。

白い粒が、ゆっくりと空を埋めていく。




この家族を愛していた。


愛が大きいことは罪だというのか。


なぜ…こんなことに…



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