パーティの面汚しと罵られ追放された荷物持ちの【収納】スキルが規格外だったので、辺境で商会を立ち上げたら世界が変わった件
人とAI [AI本文利用(99%)]
第1話 役立たずの荷物持ち
じっとりと湿った空気が肺にまとわりつく。壁から滴る水滴の音と、どこか遠くから響く名状しがたい咆哮だけが、この『深淵の迷宮』に生命の気配を伝えていた。
俺、アインは、Sランクパーティ『竜の牙』の最後尾を、息を切らしながら必死に追っていた。
「ハァ……ッ、ハァ……ッ」
喉が張り付くようだ。俺の役割は【荷物持ち】。固有スキル【収納】を使い、パーティ全員の武器の予備、大量のポーション、食料、野営道具、そしてドロップアイテムに至るまで、その全てを預かっている。物理的な重さはない。だが、いつ呼び出されても即座に対応しなければならないというプレッシャーが、鉛のように両肩にのしかかっていた。
(遅れるな……絶対に、遅れるな……)
自分に言い聞かせる。このパーティで俺が生きていられる理由は、このスキルが「便利」だから。それだけだ。戦闘能力ゼロの俺は、彼らにとって歩く倉庫でしかない。
その時、前方で空気が震えた。リーダーで剣士のレオンさんが、鋭い声で叫ぶ。
「来たぞ! ミノタウロス・ロードだ! セリア、詠唱を始めろ! ゴードン、前へ!」
地響きと共に、巨大な影が通路の向こうから現れる。牛頭人身の化け物。その手に握られた巨大な戦斧は、並の冒険者なら一撃で肉塊に変えてしまうだろう。
盾役のゴードンさんが雄叫びを上げて突進し、その巨大な盾で戦斧の一撃を受け止める。凄まじい金属音が迷宮に響き渡り、火花が散った。
「サンダー・ランス!」
魔法使いのセリアさんの声と共に、まばゆい雷の槍が放たれ、ミノタウロスの巨体を貫く。獣の咆哮が、苦痛のそれに変わった。
さすがはSランクパーティだ。連携も、個々の実力も、並の冒険者の比ではない。俺はただ、壁際に身を寄せ、邪魔にならないように息を潜めることしかできない。
だが、戦いは常に万全とは限らない。
「ぐっ……! こいつ、タフすぎる!」
ミノタウロスの予想外の反撃に、レオンさんが腕をかする傷を負った。浅い傷だ。しかし、このレベルの戦闘では僅かな隙が命取りになる。
「アイン! ハイポーションだ! 今すぐだ!」
レオンさんの怒声が飛んでくる。
「は、はい! ただいま!」
俺は即座に意識を集中し、【収納】空間にアクセスする。
(ポーション、ポーション……ハイポーションは……あった!)
頭の中でイメージした紫色の液体が入った小瓶が、俺の掌に転移してくる。俺はそれを、レオンさんに向かって全力で投げた。
「遅いぞ、このノロマ!」
ポーションを受け取ったレオンさんは、それを一気に呷りながら忌々しげに吐き捨てた。
「てめぇのせいで死にかけただろうが! この役立たずが!」
「す、すみません! 申し訳ありません、レオンさん!」
地面に額をこすりつけんばかりに頭を下げる。反論なんて許されない。俺がここにいるためには、ただ謝り続けるしかないのだ。
その直後、勝負は決した。レオンさんの剣が閃き、ミノタウロスの首が宙を舞う。巨体が崩れ落ちる音を聞きながら、俺は安堵のため息を漏らした。
「ふん。あなたのスキルって本当に地味よね。ただの物入れじゃない」
戦闘を終えたセリアさんが、冷たい視線を俺に向けた。美しい顔立ちが、侮蔑の色に歪んでいる。
「戦えないならせめてもっと機便利なさいよ。本当に足手まといなんだから」
「……はい。すみません」
俯く俺の横を、ゴードンさんが無言で通り過ぎる。その際、わざと肩をぶつけられた。
「うっ……!」
俺は壁に叩きつけられ、鈍い痛みに顔をしかめる。ゴードンさんは一度も振り返ることなく、黙々とドロップアイテムの回収を始めた。
これが、俺の日常。
Sランクパーティ『竜の牙』の荷物持ち、アイン。
俺は便利な道具で、彼らのストレスのはけ口。それ以下でも、それ以上でもない。
信じていた。「いつかきっと認めてもらえる」「役に立ち続ければ、仲間として受け入れてもらえるはずだ」と。
だが、そんな甘い幻想は、この迷宮の最深部で木っ端微塵に打ち砕かれることになる。
レオンさんがちらりと俺を見て、セリアさんと何事か囁き合っている。その目に宿っていたのは、いつもの苛立ちとは違う、もっと底冷えのするような光だった。
胸騒ぎがした。
この時の俺はまだ知らなかった。彼らが計画している、あまりにも非情な裏切りを。そして、この絶望こそが、俺の本当の人生の始まりになるということを。
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