第六章 口下手な男

司令室。


アルは椅子に座らされていた。

上官たちが円卓を囲み、次々と質問を投げかけてくる。




「空間の裂け目から、突然現れた?」

「上位個体から“光”を回収したと?」

「もう一人の女の特徴は?」




アルは、朦朧とした頭で、その声をただ聞き流していた。


(——まいったな…)




もともと口下手だ。

説明がうまくいかず、時折どもるアルに、上層部の表情はみるみる険しくなる。


だが、それでも伝えたかった。

あれは人類にとって重大なことだ。




上位個体をも超える存在。




一人の女とアベルと呼ばれる青き仮面の男。

組織だった行動。

そして——確かな“知性”。




必死に言葉を紡ぐアル。

しかし、その声は冷たい空気に吸い込まれていくだけだった。




やがて、司令官が口を開いた。

その声音は、抑えられた静けさゆえに、かえって重く響いた。




「この件は、当面、極秘とする。

 外部への情報漏洩は、一切禁ずる」




沈黙。


アルはただ、黙ってうなずいた。

命令に——従うしかなかった。


夜が訪れた。

アルは粗末な寝台に身を横たえる。

天井を見上げ、しばらくして目を閉じた。




——眠れない。




脳裏には、異形が真っ二つに裂かれる光景が焼き付いて離れなかった。

そして、その奥に浮かぶのは——あの女の、悲しげな瞳。




アルの背後に浮かぶ

黒い月の、不気味な沈黙。




まるですべてが、最初から決まっていたかのように。


(明日のことは明日考えよう…)


アルは、希望すら忘れ——


やがて深い眠りに落ちた。



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