第五章 称賛

相変わらず、灰色に濁った空。


アルは、かき集めた上位個体のパーツと、道中で発見した無人回収機を携え、帰路につく。



先ほどの異常な光景を思い返しながら——。


(命を集める…ストック…V2…そして、上位個体を一瞬で葬ったアベルと呼ばれていた魔人。一体、何なんだ……)




分からない。

アルは断片的な情報を必死に整理しながら歩いていた。


——自分の身体に、損壊がひとつも残っていないことに、まだ気づかないまま。




ふと、空を仰ぐ。


黒い月が、微かに揺らいでいた。


まるで——笑っているかのように。



拠点にたどり着くと、門番が声を荒げた。



「おい…! お前、これ…上位個体か!?」


「あ…ああ」


「ひ、一人で!?」




アルは、内心そっとしておいてほしかった。

だが、真っ二つに寸断されているとはいえ、上位個体を持ち帰るなど前代未聞。この反応も無理はない。






先ほどの魔人たち、その圧倒的存在を見た今、素直には喜べなかったが、

これが人類への大きな貢献になることは間違いない——そう、頭では分かっていた。


「悪いけど…このパーツたちをすべて資材回収のほうに回してくれないか。

少し……疲れたんだ」


「あ、ああ! ああ! 任せろ! 本当に……よくやった! よく生きて帰ってきた!」




アルは、肩を掴まれ驚いた。

門番の男が、こんなにもねぎらう声をかけてきたことなどなかったからだ。




きっと、いつも心を殺してきただけ

内心、回収人たちに思うところがあった人なのだろう。




アルは本心からつぶやいた。


「ありがとう。」




アルは門を後にすると、その足で本部——司令部へと向かう。

先ほどのことを報告しなくては‥‥。

本部ではちょっとした騒ぎが起きていた。

伝聞はアルの足よりよっぽど速いらしい。




司令部につくより先に、廊下に人だかりができていた。


いかにも“軍の上層”といったいでたち。



着崩すことのない制服に、無駄ひとつない所作


「——何があったんだ?」


アルはすぐには答えられなかった。




(あんなの…どう説明すればいい?)


——あれは。


死そのものだ。


もはや、そうとしか言えない。


アルは、目を閉じゆっくりと深呼吸をした。

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