第五章 称賛
相変わらず、灰色に濁った空。
アルは、かき集めた上位個体のパーツと、道中で発見した無人回収機を携え、帰路につく。
先ほどの異常な光景を思い返しながら——。
(命を集める…ストック…V2…そして、上位個体を一瞬で葬ったアベルと呼ばれていた魔人。一体、何なんだ……)
分からない。
アルは断片的な情報を必死に整理しながら歩いていた。
——自分の身体に、損壊がひとつも残っていないことに、まだ気づかないまま。
ふと、空を仰ぐ。
黒い月が、微かに揺らいでいた。
まるで——笑っているかのように。
◇
拠点にたどり着くと、門番が声を荒げた。
「おい…! お前、これ…上位個体か!?」
「あ…ああ」
「ひ、一人で!?」
アルは、内心そっとしておいてほしかった。
だが、真っ二つに寸断されているとはいえ、上位個体を持ち帰るなど前代未聞。この反応も無理はない。
先ほどの魔人たち、その圧倒的存在を見た今、素直には喜べなかったが、
これが人類への大きな貢献になることは間違いない——そう、頭では分かっていた。
「悪いけど…このパーツたちをすべて資材回収のほうに回してくれないか。
少し……疲れたんだ」
「あ、ああ! ああ! 任せろ! 本当に……よくやった! よく生きて帰ってきた!」
アルは、肩を掴まれ驚いた。
門番の男が、こんなにもねぎらう声をかけてきたことなどなかったからだ。
きっと、いつも心を殺してきただけ
内心、回収人たちに思うところがあった人なのだろう。
アルは本心からつぶやいた。
「ありがとう。」
アルは門を後にすると、その足で本部——司令部へと向かう。
先ほどのことを報告しなくては‥‥。
◇
本部ではちょっとした騒ぎが起きていた。
伝聞はアルの足よりよっぽど速いらしい。
司令部につくより先に、廊下に人だかりができていた。
いかにも“軍の上層”といったいでたち。
着崩すことのない制服に、無駄ひとつない所作
「——何があったんだ?」
アルはすぐには答えられなかった。
(あんなの…どう説明すればいい?)
——あれは。
死そのものだ。
もはや、そうとしか言えない。
アルは、目を閉じゆっくりと深呼吸をした。
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