捜査書類1
供述調書
本籍 熊本県■■■■■■■■■
住居 東京都■■■■■■■■■ ■■■■■■■号室
職業 会社員(株式会社■■■) (電話■■■-■■■■-■■■■)
氏名 ■■ 雄也 昭和■年■月■日生(35歳)
上記の者に対する 傷害 被疑事件につき、平成28年7月24日警視庁K警察署において、本職は、あらかじめ被疑者に対し、自己の意思に反して供述をする必要がない旨を告げて取り調べたところ、任意次のとおり供述した。
1 私は■■さんを殴ったり蹴ったりしてけがを負わせたということで逮捕され、勾留中の者です。
本日は、■■さんと口論になったときのことについて、詳しくお話しします。
2 私と■■さんは、職場の同僚です。
特別に仲が良いというわけではありませんが、仕事帰りに時間が合えばたまに一緒に飲んで帰ることもある程度には親しい間柄でした。
いつも私は■■さんのことを
ゆうさん
と呼んでいますので、これからはそう呼んでお話しします。また、ゆうさんは私のことをいつも、
たつみさん
と呼んでいました。
3 事件のあった7月19日は火曜日でしたが、前日の18日が海の日で祝日だったこともあり、連休の間に仕事が溜まっていて、非常に忙しく、ようやく仕事の目途がついたのは夜の八時過ぎでした。
その時間には、もう事務所には私とゆうさんしか残っていませんでした。
私が帰ろうとすると、ゆうさんも、
たつみさんが上がるなら、俺も上がろうかな
と言ってパソコンを閉じたのです。
それで私たちは、一緒に事務所を出てエレベーターホールに行きました。
事務所は五階にあるのですが、ここのエレベーターはいつも来るのが遅いので、ボタンを押してからしばらく待っていました。
すると急にゆうさんが、
ここ、ずっと気になってるんだよね
と言って、壁を撫で始めたのです。
エレベーターホールの壁は白いのですが、ゆうさんが撫でているその部分だけは少し黒ずんで汚れていました。
私もそこに汚れがあることは前から知っていましたが、今まで別に気にしたことはありませんでした。
けれどゆうさんは、
気になるなあ。これ、気になるなあ
と繰り返しながら、しつこく壁を撫で続けるのです。
私はちょっとおかしく思い、
ゆうさん、何してるんですか
と聞いたのですが、ゆうさんは、
いや。ここ。たつみさんも気になるでしょ。
と言って、床に膝をついて屈みこんで、急にカバンからカッターナイフを取り出したのです。
私がびっくりしていると、ゆうさんは、
削らなきゃ。越江さんにも言われたんだよ。削れって。
と言ってカッターナイフで壁の汚れを削り始めました。
硬い壁を乱暴に削ろうとするので、カッターナイフの刃はすぐに欠けて床に落ちるのですが、ゆうさんはカチカチと刃を出して、さらに削ります。
壁が傷だらけになっていくのを見て、私は止めなければいけないと思って、
ゆうさん、だめですよ、何してるんですか
とゆうさんの右腕を掴みました。するとゆうさんは、今まで見たこともないような怒った表情で、
離せよ、てめえ
と私の手を振りほどいて、また一心不乱に壁を削り始めたのです。
そのときにはエレベーターは来ていたと思いますが、私が呆然としているうちに、ドアは閉まってしまいました。
そうしているうちに、カッターナイフの刃は全て折れてしまいました。折れた刃は、床に散乱していました。
ゆうさんは突然、
ああ、こんなんじゃだめだ
と叫んでカッターナイフを投げ捨てると、壁にへばりつきました。そのまま、両手の爪を立てて、壁をガリガリとひっかき始めたのです。
カッターでも削れない壁が、手の爪なんかで削れるわけはないと思っていたのですが、驚いたことにゆうさんの足元には壁の白い破片のようなものがぽろぽろと落ちました。
ゆうさんは壁を削りながら、何かをぶつぶつと呟いていました。
よく聞くとそれは、
どうらどうら、そいでそいで
というような言葉を繰り返しているように聞こえました。
屈みこんでいるゆうさんのズボンのポケットから、小さな木片のようなものが床に落ちました。
ゆうさんはそれにも気づかず、ずっと
どうらどうら、そいでそいで
と繰り返しています。
私はその木片を拾い上げました。
なぜ拾い上げたのかは分かりません。特に深い理由はなかったと思います。
木片は、
何の木かは分かりませんが、黒ずんでいて、大人の親指くらいの大きさ
で、
刃物のようなもので削り出された感じ
でした。
ゆうさんはずっと壁を削っていました。
ゆうさんの両手は、爪が剥げ、血で真っ赤になっていました。
けれどゆうさんはそれも気にせず、ものすごい力を込めて壁を削りながら、
どうらどうら、そいでそいで
と繰り返していたのです。
それを聞いているうちに、私の中で何と言っていいか分からない怒りのような感情がこみあげてきました。
ゆうさんに対して、
勝手に削るな
と思ったのです。なぜそんなことを思ったのかは分かりません。
私は右の手拳でゆうさんの背後から頭を数回殴りました。
ゆうさんが私の方を振り向いたので、私はとっさに
やらなければやられる
と思い、どちらの手拳かは覚えていませんが、ゆうさんの顔を殴り、倒れたゆうさんの身体を何度も蹴りました。
ゆうさんはそれでも、
どうらどうら、そいでそいで
と言いながら血まみれの手で壁を削ろうとしていました。
それから、私は急に後ろから誰かに羽交い絞めにされました。
それはビルの警備員で、
何をしてるんだ やめろ
というようなことを言われたと思います。
そのときにはゆうさんは床に倒れていました。拾った木片は、どこにいったのかは分かりません。
4 ゆうさんが全治二か月の重傷を負ったと聞き、申し訳ない気持ちでいっぱいです。
けれど、ゆうさんも良くないと思います。ゆうさんには二度とあんなことを言わないでほしいです。
■■ 雄也
以上のとおり録取して読み聞かせた上、閲覧させたところ、誤りのないことを申し立て、各葉の欄外に指印した上、末尾に署名指印した。
前 同 日
警視庁K警察署
司法警察員警部補 大澤 征矢
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