第26話 部屋から出よう!


 えーっとー……。


 僕は一人、部屋の壁を見回し、出入り口を探した。


 ここに来た道は、っと……あれ? ちょっと待って? ……ドアなくねっ?

 ――紗代さんと形見の事でもめながら来て道を覚えようとしなかったツケが回ってきた!


 僕は部屋をぐるっと一周し、膝カックンされた時のように地面に崩れ落ちる。

 そして、思った。え? 詰んでる? と。


 僕は床に仰向けに寝転がる。


「どーしよかなー。」


 出口ないし。連絡手段無いし。帰り道知らないし。本気で詰んでるじゃん。


 ――ハッ、でも待てよ?

 今の状態を猫と飼い主に例えるなら……


 頭のいい猫が外に散歩しに行ったのと同じじゃない?


 その現実逃避交じりの気づきで、僕はほっとした。


「なーんだ」

(無理に探しに行く必要はないじゃないか。)


 ――……と思っている時期が私にもありました。


 僕は起き上がる。そして、

(必ずしも優斗さんがこっちに帰ってくるとは限らなくない?)

 と、思考を逃避世界から、現実世界に落とした。


 どっちにしろ外には出なければならないのだから、探しに行こう!

 ……多分、その方が好感度も上がって仲良くできるよね?


 僕は立ち上がり、再び壁に視線を向けて出口を探し始めた。


・・・10分後・・・


(どっちにしろ外には出なければならないのだから、探しに行こう!)


 ――と思ってる時期が私にもございました。


 はい。分かっています。このくだり二回目ですね。

 でも許してください。もう僕には現実逃避しか道が残されていないんだ!(涙)


「出口どこぉ……?」


 うう、僕はもう疲れた。

 ガラスのハートはすでに爆ぜて0,01ミリ以下のサイズになって土に返りました。


 ……あきらめよう。好感度をミリ単位でも上げよう大作戦は失敗です。


 僕は溜息をつき、この部屋の隅に置いてある、ごつい熊の置物に話しかけた。


「クマさんクマさん。この部屋の出口を教えてください。」


 こっくりさんこっくりさん、と呼びかけるような感じでクマに話しかける。

 しかし、熊は答えない。


 こうなると、もはや笑えてくる。


「いやーやっぱりさ、ハハッ、この部屋は全方向壁で出口なんか見つからないしさ? あるのはソファーとテレビ台とテレビと本棚と本。何語かすらわからない異国の本に、小さなテーブル。それと筆。金庫と鍵がついてて開かないドア。……ここは監禁部屋か?」


 自虐気味にそう笑っては見たものの、監禁部屋という言葉には少し納得してしまう。

 ――確かにそうかもな……と。


「そうか……そう考えれば辻褄が合う。僕は知ってはいけない秘密(魔法)を知ってしまった。そうだ、最初からだれか殺すつもりだったんだ! そうでもなければあんな無防備な場所で魔法を使うわけがない。そうか! 筮さんたちは僕をここで殺すつもりだ!」


 置物の熊は顔色一つ変えない。

 まあ、置物が動くなんてそんな女児向け魔法少女アニメの第一話じゃあるまいし、そんなことはあり得ないけど。


「なーんて。置物の熊に言ったってしょうがないよね。まあでも、別に誰が聞いてるわけでもないし――」

「………………。」


 その時、僕は引き気味に見てくるひとりの視線に気づいた。


「………………え?」


 その視線をたどって壁を見ると、なんと優斗さんが、壁から頭だけを出して覗いていた。


「ふぉあっ……………………!!!?」


 思わずその顔面に、熊の置物を投げつけてしまいました。

 優斗さん、ほんっ……とうにごめんなさい!

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