第5話 空中浮遊・約70センチ前後


 少女を見て一番最初に僕が思ったこと……それは、

(……なんか……浮いてね?)

 だった。


・・・


 少女は、約70センチほど浮いていた。


 え? ………………は? んん?


「あの……?」


 陸は思い切って話しかけてみた。


 その時、少女はやっと陸の存在に気づいたように目を見開いた。

 彼女の表情は、真っ青を通り越して真っ白になり、地面に崩れ落ちた。その眼には小さく涙が浮かんでる。


 少女は、一瞬陸をキッと睨みつけた後、泣きそうな顔になり、下を向いた。

 そしてその後、独り言のようにつぶやいた。


「……どうして?」


「えっ、どうして?」


 そんなこと言われても……。

 陸は思わず眉を下げて頬をかいた。


 どうしてって、ここに来た理由を問われてるのかな?

 まあ、しいて言えば……


「猫を追いかけて……?」


「そんなことない!! そんなはずは……! ここには……。」


「ここには?」


「だれも……なのに……!」


「……え? えっ……と、ごめん、なんて?」


 最後の一言は聞き取れなかったが、警戒されている事は分かる……。

 この子が泣いてるのは十中八九僕のせいなんだろうけど、僕が何をしてしまったのか全く分からない……。


 この場面誰かに見られたらマズいかも……。


 いや分かってます。目の前で女の子が泣いてるのに慰めもせずこんなことを考えるのはクズだって。でも……考えちゃうんだなぁ……。


 とりあえず、元気づけないと……。

 えーっと、何ができる? 今の僕にできること……あっ! そうだ!


 僕はとりあえず小学校の時にやらされた罰ゲームを思い出し、手を叩いていかれた踊りを踊る。


――パン、パン、パパンパン


 で、この後……地獄の即興ラップ(自己紹介)タイムがやってくる……。でも無理! 手を叩いた時点で盛大に滑ってる!!

 罰ゲームの時ならクラスメイトが笑ってくれたけど、この状況はさすがに無理!


 恥ずかしすぎる。泣きたい。

 ――誰か、小学生の時の罰ゲームでウケを狙った僕を止めてきて……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る