ブラック企業で勤務中に喚ばれた俺、ゴミは不要と神に破棄されたけど、拾う神もいた~終末世界で始める理不尽リベンジ~
かくろう
第1章
第1話「神々の会議室・俺リストラのお知らせ」
――白。
それ以外の言葉が見つからない。
床も壁もない。
上下も温度もなく、風も音もない。
あるのは“静止”だけ。まるで時間ごと冷凍された世界。
「……え、なにこれ。
なんかパソコンの初期化画面みたいになってない?」
目をこすっても、景色は変わらない。
確か俺、さっきまでオフィスにいたはずだ。
部長が「社会人たるもの~」って、永遠に同じ話してる地獄会議の真っ最中で――
「……あれ? まさか、死んだ?」
自分の声が、やけに響く。
音が吸われない。反響しない。
“存在している感触”だけが、妙にくっきりしている。
あれか? 昨今は設定が擦られすぎてる異世界どうのこうのってヤツじゃないだろうな。
ハッ……そんなバカな。
そんな中、ふっと視界の中央に“ノイズ”が走った。
――空気の裂け目。
そこから、白金の光をまとった女が現れる。
見た瞬間、息が止まった。
いや、止められたのかもしれない。
『――異界の人間よ。お前は不要と判断された。』
鈴のように澄んだ声。
なのに、その響きには慈悲の欠片もない。
「え? 不要? ……いきなり? つか誰っ」
『この世界にお前の魂は馴染まない。
本来、呼ぶはずだった“勇者”と違って、お前には祝福がない。』
「いや、そんなの急に言われても! そっちが呼んだんだじゃないのかよっ⁉」
『祝福なき者は、世界を濁らせる。
この地に置いておけば、天と大地の力が乱れる。
だから、消してしまうのが一番穏やか』
「穏やかの意味おかしい!!
ていうか、消す前に“どうにかできませんか”とか、あるでしょ普通!」
『残念ね。でも、これも神々の決まり。
人間は私たちの描いた絵の中で動く“点”に過ぎないの。
間違って描いた線は――消すだけ。』
マジで何言ってやがるんだこの神は?
「さらっと怖ぇこというなや!
神様、ほんとに人間を線と点で管理してるのかよ……!」
『あぁ、その顔。
人間が自分の終わりを悟った時の表情は……本当に、愛らしい。』
「こっちは恐怖で固まってるんだよ!! 愛でるな!!」
『ですから、廃棄します』
「いやちょっ、決断早すぎ! 判断が速い! もうちょっと遅くてもいいだろっ。ヒアリングとかないの!?
“今後のキャリアプラン”とか“異世界での目標”とか!?」
女はゆるやかに微笑んだ。
その笑みは美しかった――けれど、どこまでも壊れていた。
『安心して。痛みは、すぐに終わるわ。』
「“すぐ”って言ったな!? 曖昧な慰めすんな!!」
『あぁ……その顔。
人間が自分の終わりを悟ったときの表情は――本当に、愛らしい。』
2回言いやがった! コピペでもしてんかって言うくらいまったく同じトーンで言いやがったぞコイツ!
「サディスト通り越して研究者!? この神界コンプラどうなってんの!?」
その瞬間、床――いや、世界の下層が音もなく割れた。
何の前触れもなく、白がひび割れ、崩れていく。
「うわあああああっ!? せめて現場の指示をぉぉおおおおおぉおおぉぉぉ……」
重力が一瞬で支配する。
風がないのに、体だけが引きずり下ろされる感覚。
恐怖が喉を焼く。
上を見上げると、神――ルティアが指先で髪を払った。
なんで俺、あいつがルティアだって分かるんだろ?
『さようなら、異界の異物。
あなたの悲鳴、きっと綺麗な残響になるわ』
「やっぱ趣味悪っ!? 神様ってブラックどころか闇企業じゃん!!」
白が闇に変わる。
視界がゆっくりと溶け、意識の奥で何かが反響した。
「うおああああああああっ! 落ちるぅううううっ! 死ぬぅううううう」
顔の皮膚を引き剥がすかと思うほどの風圧で叩き付けられる。
このまま落下すれば確実に地面に叩き付けられて死ぬ。確実にあの世にまっしぐらだ。
転生直後にまた死ぬとか笑えなさすぎる。
そのとき――違う声が響く。
『……聞こえますか、人の子よ。』
あたたかく、澄んだ声。
音そのものに“抱きしめられるような感触”がある。
「……え? また誰? この落下、リレー形式なの!?」
『私はアルディナ。原初の光。
あの娘たちが、また“遊び”をしてしまったようですね。』
「遊び!? いま俺、命落としゲームの真っ最中なんですけど!?」
『ごめんなさいね。彼女たちはまだ世界の仕組みを理解していないの。
ですが――あなたを見て、少しだけ思い出したのです。人の意志というものを。』
声が優しく笑う。
その音だけで、心が少し楽になる。
『あなたの魂には“理不尽”が宿っている。
命令より、恐怖より、理よりも、あなたは“続けよう”とする。
それは創造の種。』
「……なんか褒められてるけど、多分ブラック勤務を正当化されてる気がする!」
『この力を授けます。《創生核(ジェネシス・コア)》――
あなたの意志が世界を描く、始まりの核です』
胸の奥に熱が走る。
脈打つように、光が体を満たしていく。
『生きてください、徳島栄次郎。
そして――いつか、彼女たちの“遊び”を終わらせてあげて』
「ま、待って! ちょ、使い方説明書!! あとチュートリアル!!! せめて落下から守ってくれぇええええええええ」
光が一気に爆ぜた。
感覚が引き裂かれるような衝撃。
――次の瞬間、赤黒い空が広がっていた。
息を吸った瞬間、喉が焼けた。
風は熱い。
地面は灰。足を踏み出すたび、乾いた音がした。
どうやら地面に激突死は免れたようだ。
「……はぁ……神界のアフターケア、ゼロかよ……」
数分後、俺は異世界1発目の死に目に遭うことになろうとは考えてる余裕がなかった。
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