師の遺した賢者の石

天使猫茶/もぐてぃあす

黒猫は年を取らない

 黄金を自在に作り出し、不老不死をもたらすという賢者の石。

 僕の師である偉大な錬金術師はそれを見事に創ったという。

 師匠は僕の目の前で何度も、ペットの子猫を抱きかかえた片手間で黄金を作り出していたので賢者の石を創り出したのは確実だった。

 だが不老不死というのは眉唾だ。なにしろ僕はいま師の葬式を終えて戻ってきたところなのだから。



 薬草の煎じられた匂いの染み付いた錬金術の工房へと戻ってきた僕はなんとなく辺りを見回す。なにも変わらないいつも見慣れた工房であるはずなのに、その部屋の主がいないからだろうか、なんとなく寂しくなってしまったように感じる。

 僕はいつもと同じように師匠の椅子の前、師匠が色々と教えてくれていた弟子用の椅子に腰掛けると、師匠の遺言を思い出す。


「工房にあるものは全てお前に遺す。自由に使え。もちろん、賢者の石もな」


 そのときの表情は、見つけられるなら見つけてみろと言っているようだった。



「師匠はいったいどこに賢者の石をしまっているんだろう?」


 しばらくの時間をかけて工房内をあらかた探し終えた僕は一人でそう呟く。机も、棚も、屋根裏部屋も見たがそれらしいものはどこにもない。

 首を傾げている僕の足に、師匠のペットである黒猫が体を擦り付けてにゃあと鳴いた。どうやら餌を催促しているらしい。


「全く、主人が死んだってのにお前は変わらないんだなあ」


 僕は苦笑しながらその子猫を抱き上げる。そしてふと自分の言葉に違和感を覚えた。

 この子猫は僕が師匠の弟子になったときからもうこの工房にいた。


 いったい、いつまで変わらず子猫のままなんだ?


 僕は美味しそうにご飯を食べる猫の首元をそっと確認してみる。

 黒い毛の中に隠れるように、琥珀色の宝石がキラリと光っていた。




 それから数十年が経ち、僕も弟子を取るようになってもまだその猫は子猫のままだ。

 どうやら賢者の石の不老不死の効果というのは本当のようだった。

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