第3話

カーテンの隙間から漏れ出す陽の光が、私の顔を照らした。天井をしばらく見つめ、近くに置かれたスマートフォンを開いた。今日は土曜日、仕事は休みだ。

「はあ、朝ごはんでも食べようかな」

大きなあくびをして、ベッドから出ようとした瞬間、パジャマを着ていない事に気付く。昨日つけた下着がそのままだ。何かがおかしいと、不意に後ろへ振り返る。

自分の家のはずが、男性が一人同じベッドの上で横になっている。布団をかぶったその人物は、誰なのか判定できない。

「なんで私の家にいるんですか」

思い出したように下着姿を近くにあった毛布で隠し、彼を見つめる。

「もしかして昨日の事、覚えてない?」

昨日といえば、瀬名先輩と慎一郎先輩と飲んで、沢山飲んで、ガブガブ行って、そこからの記憶が全く無い。

「俺、おんぶしながらここまで由依を運んだだけど、覚えてないか」

「お、おんぶ!?本当にすみません、ご迷惑をお掛けして、ごめんなさい」

毛布にくるまったまま彼の方を向いて、土下座をした。あまりにも頭を下げるので、彼は「大丈夫だから落ち着いて」と冷静に返した。

「あともう一つ聞きたいんですけど」

頭を上げて、彼の身体と自分の身体を交互に見る。聞くのは照れくさいが、こればかりはきちんと確認するべきだろうと勇気を振り絞る。

「私たち、しちゃいましたか…?」

恐る恐る彼の方を見ると、「生殺しを受けただけでしては無い」と長くかかった前髪を揺らしながら答えてくれた。

「あ、あの、生殺しって…」

聞くのも恥ずかしいけど、私が失礼な事をしたに違いない。今度菓子折り渡さなきゃ…

「介抱してあげて、帰ろうとしたら帰らないで欲しいと言われて、気付いたらベッドに誘導されていました。お互い下着姿まで脱いだところで由依が爆睡。これが世にいう生殺しってやつね」

必死に額を床に擦り付け、謝罪の言葉を並べる。

「本当に本当に申し訳ありませ……」

「なんで謝るんだ?」

「え、だって失礼な事を散々」

「好きな女が酒に酔ったまま甘えてきて、その誘惑に打ち勝つほどの勇気が俺には無くて、むしろ寝込みを襲ったような感じになって、謝るべきは俺の方だと思う。ごめんな」

彼は布団から出ると、上裸にパンツの姿で長くかかった前髪を指でかきあげた。そこで初めて相手の顔を認識した。

「え、まさか、なんで…」

衝撃で言葉が詰まる。

「なんでって、由依が俺と帰るって駄々こねたんじゃないか」

思い出せない記憶を受け取るしかないのが、余計に恥ずかしい。


ましてや、その相手が慎一郎先輩だなんて。

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