土食ってた小学生、万博に行く。
ぴよぴよ
第1話 家族で万博会場入り
私がまだ小学校低学年だった頃だ。愛知万博に行ったことがあった。
モノレールに乗り、大量の人の波を乗り越えると、万博会場が見えてくる。
そこには夢の光景が広がっていた。
未来の車、喋るロボットたち、海外の美しいパビリオンたち。どれもこれも新鮮で真新しく、素晴らしいものたちだった。
私と母は「すごい、すごい!」と騒ぎながら周囲を見渡していた。その後ろを荷物係の父がてくてくと歩いて行く。
気合い十分、元気も十分。天気にも恵まれ、絶好の万博日和である。
父からは万博参戦前にお小遣いをもらっていた。
「ちょっとずつ大事に使いなさい。無駄遣いしないように」
五千円近く渡されていたと思う。五千円なんて小学生にとっては大金だ。
こいつで万博グッズを買いまくろうと、私はかなり意気込んでいた。
最初にどこに行ったか忘れたが、私たちはたくさんの国が集合している施設に入った。
確か大阪万博では、コモンズと呼ばれていた施設である。
いろんな国の服や装飾品が並べられている。木でできた不気味なお面もあった。
私の財布の紐が一気に緩くなる。
私は「一体そんなものどこで使うの?」と言うような置き物や、しょうもない土産を買うのがたいへん好きであった。買うだけ買って満足して、あとは押入れ行きになる。
それでも買うのをやめられなかった。
父からは、変なものを買うんじゃないとよく怒られていた。母もそんな感じだったので、二人でよく怒られたものだ。
そんな私は、サソリのキーホルダーを手に取っていた。あんたはそんなにサソリが好きなのかと聞かれたらノーだ。しかしこの時はどうしてもサソリが欲しくてたまらなかった。
千円だったので即購入した。私がサソリを見せると、
「またそんなもの買って。つけないくせに」と父は呆れていた。
一方の母は「いい買い物をしたね」と褒めてくれた。
そして母は「これを買いたい」と不気味なお面を父に見せていたが、却下となった。
その次に我々はエジプト館へ向かった。
中にはヒエログリフが大量に描かれており、さあエジプトに来ましたよという雰囲気が漂っていた。ツタンカーメンやスフィンクスにドハマりしていた私は、入っただけで大喜びだった。確かエジプトの歴史的なものが展示されていたと思う。
問題は展示品を見た後だった。
お土産コーナーに古代エジプトの王冠が売っていたのだ。どうしてもほしい。
これを被れば、私も王様になれる。
しかし五千円近くする。
すでにサソリで戦力を削られていた私の財布では、太刀打ちできない金額だ。
「買って、買って」と私は大騒ぎした。王冠はここでしか買えないもので、王様にどうしてもなりたいと熱弁した。
「くだらない。自分のお小遣いで買いなさい」父には冷たくこう言われた。
それでもめげずに買ってコールを繰り返す。大勢の人間がひしめく万博会場だ。周囲の迷惑になるだろうし、早く子供を黙らせたほうが良い。これも作戦だ。
「サソリなんて買うから悪い。王冠は諦めなさい」
父はまたこう言ったが、私は諦めなかった。
とうとう母が「どこにも売ってないものでしょ。買ってあげるよ」と言って買ってくれた。甘やかすなと父は怒ったが、最終的に購入を許した。
私は大喜びで王冠を頭につけた。
半袖半ズボンに、汚いリュック。そんな出立ちの小学生。そいつに王冠が乗っている。
見るからに馬鹿らしい格好だったが、私は子供だったので気にしなかった。
そこに追い討ちをかけるかのように、母が「エジプト」と書いてある、光るうちわを購入した。持ち手が七色に輝く面白いうちわだ。
「またくだらないものを買って」と父は言ったが、母と二人で無視した。
その後、エジプト館で昼食を食べることになった。
父は「エジプト料理より、名古屋の料理を食べよう」とか何とか言ったが、母が説得し、仕方なくエジプト料理レストランに向かった。
母が大量にエジプト料理を頼んでいく。ひよこ豆の煮物だとか、モロヘイヤのスープが運ばれてきた。珍しいエジプト料理の登場に、私も母もご満悦だった。
最初は二人で「美味しい、美味しい」と食べていた。
しかし慣れない食べ物というのは、舌を疲弊させるものだ。
だんだんペースが落ち、私も母も食べなくなった。
「だから言ったんだ。どうせ食べなくなると思った!」
父が怒りながら料理を平らげた。こうしていつも困った時は必ず助けてくれる。
父がいるから、母と私は適当に過ごせるのだ。
昼食の後は、トルコアイスを食べにいったり、いろんなパビリオンを見て回った。
このパビリオンがどこも激混みだった。見渡す限りの人まみれ。こんなにホモサピエンスを展示してどうするんだ、と思うほどに。
並ぶのが非常に辛い。私は遠慮なく文句ばかり言い、母も機嫌が悪くなっていった。
父が「俺が並んどくから、日陰にいなさい」などと言ってしまった時は、母と二人で本当に日陰で過ごした。
しばらくして「俺ばっかり並んでる!」と父はまた怒り出した。
人の親切は適度に受け取るのがちょうど良い。このように利用しまくれば、誰だって怒りたくなるということだ。良い勉強になった。
並ぶのは大変だったが、並んで良かったと心から思える会場だった。
特に心に残っているのは、トヨタ館だ。
ロボットがラッパを吹き鳴らして歩きまわり、未来の車が走り回る。
どれも明るい未来を感じさせてくれた。
大人になったら未来の車に乗って、家にはロボットがいる暮らしになっているのか、と楽しい気分になったものだ。
実際に大人になった今、ロボットは高くて買えないし、車なんてオンボロの中古車に乗っている。
そんなつまらない未来など、当時は考えもしなかった。未来は素晴らしいものになると、本気で信じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます