第42話 光と嵐 ― 生徒会長由璃VSテンペスト
森が、まるで世界の終わりのように鳴り響いた。
雷と風が交錯し、空そのものが引き裂かれていく。
由璃は聖域の中心に立っていた。
純白の結界が光を放ち、空気を震わせる。
その周囲を、黒い嵐が渦を巻いていた。
「――聖域が、削がれてる……!?」
護衛として同行していた教師の一人が声を上げた。
「離れて!」
由璃が叫ぶと同時に、光の羽が散った。
聖なる障壁が、嵐に削られていく。
「美しい……」
テンペスト・ヴォルグが笑った。
「抵抗が美しいほど、壊す価値がある」
「あなたの“美”は、死の模倣よ」
由璃の声は凛としていた。
「私の“美”は――生きること」
その瞬間、聖光が爆ぜた。
由璃の魔力が限界を超え、天から光の槍が降り注ぐ。
《聖裁の矢(ジャッジメントレイ)》
無数の光が嵐を貫いた。
だが、テンペストは指先ひとつで風を操り、雷を纏って笑った。
「……素晴らしい。光が壊れる音は、何度聞いても飽きない」
次の瞬間、彼の姿が掻き消える。
由璃の背後で、轟音。
振り返った瞬間には、雷の刃が目前に迫っていた。
「っ――!」
由璃が結界を展開するが、間に合わない。
光の防壁が砕け、服が裂ける。
肌に赤い線が走る。
「由璃様!」
教師たちの悲鳴。
テンペストが一歩踏み出し、手をかざす。
「さぁ――終わりだ」
雷鳴が鳴り響き、紫電が空を埋め尽くす。
――その時。
テンペストの動きが、止まった。
「……ほう?」
彼の瞳が、森の奥を見据えた。
そこに、ただ一人の少年が立っていた。
月光を背に、漆黒の制服を揺らす。
静かな瞳。だが、その奥には“星の光”が宿っていた。
テンペストの口元が、ゆっくりと笑みに歪む。
「……まさか。“星”が、まだこの地に残っていたとは」
「……!」
由璃が息を呑む。
だがテンペストは、それ以上攻めなかった。
雷が消え、風が凪ぐ。
「今日はここまでにしよう。
“嵐”が吹くには、まだ少し早いようだ」
そう言い残し、彼は風とともに姿を消した。
嵐が止み、森に静寂が戻る。
由璃は倒れ込み、膝をついた。
空気に残る雷の残滓が、まだ肌を焼くように痛い。
「……今のは、何?」
誰も答えられなかった。
遠く、森の影で。
星牙は、拳を握りしめていた。
(……やっぱり来たか。幹部――)
風の向こうに消えていく雷光を、
その瞳で、まっすぐに見据えていた。
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