第35話 表彰式と、夏の予感

午後五時。

長かった競技祭がついに幕を下ろす。

黄金色の光が差し込む競技場には、生徒たちの歓声と拍手が鳴り響いていた。


『――以上をもちまして、アストラ魔導学園・第十五回魔導競技祭、全競技を終了します!』


アナウンスの声に、拍手とどよめきが重なる。

その中で星牙は少し離れた観覧席から全体を眺めていた。

レンやクレアが生徒代表として前に立ち、入賞者の名前が読み上げられていく。


「……レン、2冠か」

〈主の友人、なかなか優秀ですね〉

「努力家だからな。俺とは違って」


壇上のレンが満面の笑みでトロフィーを掲げる。

「はいっ! これ全部、みんなと力を合わせて勝ち取った勝利です!」

彼女の声に、歓声が湧き上がる。


司会者が続けた。

「そして――特別功労賞。

 本日の競技中、突発的に発生した魔獣を鎮圧し、被害を防いだ者に授与されます。

 星宮星牙、前へ!」


場が一瞬、静まり返る。

ざわめき。

「え、星宮くん!?」「あの時の……!」「やっぱり、あれ星宮だったのか!」


星牙は少し面倒そうに立ち上がり、壇上へ歩いた。

拍手の中、レンが笑顔で拍手を送っている。

「さすがだね、星牙」

「……目立つのは嫌なんだが」

「もうバレたし、仕方ないって」


学園長・時継が近づき、穏やかに微笑んだ。

「よくやったな。お前の判断が数百人を救った」

「別に……あれくらい、誰でもできた」

「そうか。だが、誰も“やらなかった”のだ」


その一言に、星牙は少しだけ視線を落とした。


会場の外では、夕暮れが学園を染めていた。

レンが駆け寄り、星牙の腕を小突く。

「ほんと、カッコつけるんだから」

「……別に」

「明日くらい休もうよ。疲れたでしょ?」

「そうだな」


笑いながら歩く2人の背中を、クレアが微笑ましそうに見つめていた。


そして翌朝――。

始業式の放送が鳴り響く。


『来週より、恒例の“夏季合宿”を実施します!

 対象はS〜Aクラス全生徒。実践・合同演習・特別講義を含みます!』


教室中がざわつく。

「夏季合宿!?」「やったー!」「合同演習ってまさか……!」

レンが振り向いて、にやりと笑う。

「ねぇ、星牙。行こ?」

「……断る理由、あるか?」


その笑みの裏で、学園上層部の議室には一枚の報告書が置かれていた。


【件名:北部森林地帯・魔力異常値の上昇について】

【備考:夏季合宿予定地と一致】


――静かに、運命の夏が始まろうとしていた。

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