第33話 昼下がりの静寂、そして――
魔導競技祭、昼の部。
午前の競技を終えた学園は、一時の休憩時間に入っていた。
屋台が並び、生徒たちの笑い声が響く。
まるで文化祭のような賑わいだった。
「焼きそば、2つくださーい!」
レンが笑顔で屋台に手を伸ばす。
隣では、クレアがため息をついた。
「……朝から動きっぱなしなのに、よく食べるわね」
「だって燃費悪いんだもん!」
「そりゃ火属性だもの……」
2人のやりとりを遠くから見て、星牙はベンチに腰を下ろしていた。
「……相変わらず、賑やかだな」
彼の膝の上には、手のひらサイズの金属の腕輪――擬態中の従魔〈ヴァル〉が静かに輝いていた。
〈……主よ、どうして出場しないのです?〉
「出ても面白くないからな。勝ち確定の競技は、退屈だ」
〈ふむ。ですが、“刺激”は悪くないでしょう?〉
「刺激なら、もうすぐ来るさ」
〈……感じましたか?〉
「ああ。魔力の流れが、一箇所だけ不自然に揺れてる」
星牙の目が一瞬だけ細くなる。
遠く、学園北棟の上空――微かな“歪み”が揺らいでいた。
それは誰にも気づかれないほど小さな、しかし確かな異変。
レンが焼きそばを2つ抱えて戻ってくる。
「はい! 半分こね!」
「……いや、俺そんなに食わな――」
「いいから!」
強引に箸を渡され、思わず苦笑する。
ふと、その瞬間。
周囲で子どもの笑い声が途切れた。
空が、わずかに陰る。
〈……やはり、“瘴気”です。〉
「わかってる。まだ微量だ……放っておいても問題ない」
〈ですが、これが連鎖すれば――〉
「止めるさ。その時が来たらな」
星牙は軽く息を吐き、空を見上げた。
青空の向こう――遠くに、黒い雲がひと筋。
「……本当に“今年”は、退屈しなそうだ」
そんな独り言が風に流れた時、アナウンスが響いた。
『これより午後の部、第三競技“魔法弓対抗戦”を開始します! 出場者は控え室へ!』
レンが振り向き、笑顔を見せる。
「よーし、午後も頑張るよ!」
星牙は立ち上がり、ポケットに手を突っ込んだ。
「――行くか。そろそろ、面白くなってきた」
昼の陽射しが、再び学園の上に降り注ぐ。
だが――その光の下で蠢く“影”に、まだ誰も気づいていなかった。
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