第31話 第一競技・魔導障壁

「出場者、前へ――!」


放送と同時に、第一種目“魔導障壁走”の出場者が一斉に前に出た。

観客席がざわめき、会場の空気が熱を帯びる。


魔導障壁走。

それは、学園独自の競技――

浮遊する障壁や魔導トラップを突破し、最奥の“魔力結晶”を奪取したチームが勝利するという、いわば“魔法版障害物競走”だ。


参加は3人1チーム。

A〜Cクラスの代表が選ばれるが、今年は特例としてSクラスからも希望者が出ていた。


「やっぱり、出るんだな……」

観覧席の上段、星牙は腕を組んで観戦していた。

レンがスタート地点で軽く伸びをしているのが見える。

「……あの顔、やる気だな」


彼の隣でクレアが双眼鏡を構える。

「そりゃそうよ。去年の優勝者が目の前にいるんだもん」

「……レオか」

「そう。序列15位、“風刃のレオ”。空戦特化の魔導師」


会場中央、銀髪の少年――レオ・ヴァルハイトが立っていた。

彼の足元には、淡い風の陣が描かれている。

魔力が漏れ出し、空気を震わせていた。


「へぇ……いい風、吹かせてくれるといいけど」

レンが小さく笑う。

風が、彼女の赤髪をふわりと揺らした。


審判の魔導士が杖を掲げた。

「――位置について!」

魔力の陣が輝き、スタートラインが光の帯で区切られる。


「よーい……」


――ドンッ!


魔力の爆発音と同時に、十数人の魔導師が地を蹴った。

地面が波打ち、空中に幾重もの魔法陣が浮かび上がる。


レンが風の軌跡をまとい、前方の障壁を突破。

「《フレイムバースト!》」

爆風と共に炎の推進を利用して跳躍――その一撃で一気に三人を抜き去った。


観客席が沸く。

「レンちゃん早いっ!」「火属性の推進魔法か!?」「あれ制御できるの!?」


しかしその直後、レオが指先を鳴らした。

「《エアスライサー》」

空気を切り裂く風刃が障壁を連鎖的に破壊――その間をすり抜け、彼はレンを追い抜いた。

「やるねぇ……!」

レンの口元が緩む。

「じゃあ、こっちも――《スカーレットブレイズ!》」

爆炎が地を走り、レオの背後で爆発した。衝撃波が追撃となってぶつかる。


「ッ……くぅ、派手だな!」

レオは回避と同時に空中へ舞い上がり、障壁の上を風で駆け抜ける。


上と下、炎と風。

二つの軌跡が交差する。


――最奥の結晶まで残り100メートル。


クレアが小声で呟いた。

「あの2人、同格ね」

「いや」

星牙は静かに目を細めた。

「レンが、少しだけ上だ」


そして――


結晶が視界に入るその瞬間、レンが風を纏いながら地面を蹴る。

「《烈火旋華!》」

炎が花弁のように咲き、風を飲み込む。

その勢いのまま、結晶を掴み取った。


審判の声が響く。

「勝者――レン・フレイムハートチーム!!」


観客席が揺れた。

火花が空に散り、魔力の残滓が舞う。


「ふぅ……いい試合だったね」

星牙が微笑むと、隣のクレアが呆れたように笑う。

「ほんと、観戦ばっかりして。いつ出るのよ?」

「……今はまだ、出番じゃない」


星牙の視線の先――

観覧席の最上段で、学園長・星宮時継が腕を組みながら、何かを計るように目を細めていた。


「――やはり、“目覚め”は近いか」


祭典の熱気の裏で、何かが静かに動き出していた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る