第24話 地上へ戻る光と、小さな約束

淡い光に包まれ、転移魔法陣が起動した。

視界が反転し、三人はアストラ学園の転移ホールへと戻ってくる。


「おかえりなさい! チーム・星宮!」

迎えの職員たちが駆け寄る。

レンとクレアは安堵の息をつきながらも、まだ気が抜けない表情をしていた。


星牙は手にした黒い魔石を無言で差し出す。

「……これを、見てくれ」


受け取った教師の顔色が、一瞬で変わった。

「この紋章……まさか……!」

「“魔王軍の紋”だ」

星牙の低い声に、場の空気が凍りつく。


報告を受けた学園長――星宮時継は、すぐに現れた。

杖をつきながら、静かな眼差しで魔石を見つめる。


「……これは確かに、魔王軍の紋章。

 だが、ダンジョン内に残るとは異例だな」


「仕掛けられた痕跡もありました。おそらく、外部から」

「ふむ……」


短く頷いた時継は、職員たちを見回した。

「この件は機密扱いだ。外部には一切漏らすな。

 ――いいな?」


その声音に、誰も逆らえなかった。

学園最強の男。

そして、かつて“時の神環者”と呼ばれた存在。


星牙が小さく息をつく。

「じいさん、どう動くつもりだ?」

「お前は学生だ。気にせず日常を送れ」


「……あぁ、了解」

短く答えながらも、星牙の瞳にはわずかな警戒が宿っていた。



「ふぅ〜〜、やっと戻れたぁ!」

レンが伸びをしながら廊下に出る。

「もう、疲れた……魔王軍とか聞いて、変な汗かいたし」

「お前、戦闘中より疲れてないか?」

「そういうこと言う!」


クレアが後ろで笑いながら手を振った。

「二人とも、今日はお疲れさまです。また明日〜!」

「おう、またな」


星牙とレン、二人きりになる。


しばらく無言で歩いたあと、レンがぽつりと呟いた。

「ねぇ、明日……休みだよね?」

「そうだな」

「……久しぶりに、街でも行かない?」


星牙は少しだけ目を細めた。

「買い物か?」

「うん。まぁ、それもあるけど……」

レンは顔を赤くして、視線を逸らす。

「たまには、息抜きってことで」


星牙が少しだけ笑う。

「いいだろう。場所は任せる」

「えっ……ほんと?!」

「嘘を言う性格に見えるか?」

「見えないけど! もう〜、そういう言い方ずるい!」


レンは頬を膨らませながらも、

どこか嬉しそうに笑った。


「じゃ、明日ね!」

そう言って、軽やかに手を振り、

夕暮れの廊下を駆けていった。


星牙は一人、窓の外に広がる街を見下ろす。

――黒い霧。魔王の紋章。そして、胸に残るざわめき。


(……しばらくは、平穏であってくれ)


空の彼方、落日の赤が静かに瞬いていた。

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