第20話 作戦会議と、出発前の空

アストラ魔法学園・中庭。

春の光が差し込み、魔導樹の葉がゆらゆらと揺れていた。


「ふぁぁ……朝っぱらから集合とか聞いてないんだけど」

レン・フレイムハートがあくびをしながらベンチに腰を下ろす。


「早起きが苦手なら昨日早く寝ればよかっただろ」

隣で星宮星牙が淡々と答える。


「うるさーい。テストの時もそうだったけど、

 あんたってほんと“真面目”って言葉でできてるよね」

「悪いことではないと思うが」


「むぅ〜、そういうとこよ!」


二人の言い合いを見ながら、クレア・ウィンターフォールが苦笑した。

白銀の髪を軽く揺らしながら、タブレット型の地図を広げる。


「ほら、そろそろ作戦立てよ。

 与えられたエリアは《第3ダンジョン・第一層東ブロック》」


地図には複雑に入り組んだ通路と、

“魔力核”と記された光点がいくつも浮かんでいる。


「……単純に行けばいいわけじゃないのね」

「そう。三時間以内に核を一つ確保して帰還。

 他チームとの戦闘は禁止だけど、接触は想定されてる」

「つまり、妨害もあり得るってことか」


星牙が地図をのぞき込みながら、さらりと答える。

その表情は静かで、けれど周囲の空気を自然と引き締めていた。


「私は結界でサポートする。レンは攻撃に集中して」

「了解! 火力全振りね!」

「俺は状況判断と索敵を担当する。

 ――単独行動は、できるだけ避けろ」


その言葉に、レンが少しだけ眉を寄せた。

「……なんか、心配してくれてるみたいに聞こえる」

「事実だ。味方が倒れたら面倒だろ」

「素直に“助けたい”って言えばいいのに」

「それは違う」

「違わないわよ!」


またしても言い合い。

クレアはくすっと笑って、軽く咳払いした。


「はいはい、そこまで。そろそろ集合時間よ」


三人が立ち上がると、遠くからアナウンスが響いた。


『各チームは10分後にゲート前へ集合してください』


「よし、出番ね!」

「緊張してる?」

「してるに決まってるでしょ。でも――楽しみでもある」


レンがにっと笑い、拳を握る。

星牙もほんの少しだけ口元を緩めた。


「……そうか」


空を見上げると、

澄んだ青の奥に、淡い星のような光が一瞬きらめいた。


誰も気づかないほどの小さな瞬き。

それでも、星牙の瞳は確かにそれを捉えていた。


「……また、か」

「ん? 何か言った?」

「いや、何でもない」


星牙は微かに笑って、歩き出した。

その背中を追うように、レンとクレアも続く。


こうして――

アストラ学園・春季野外実践演習が幕を開けた。

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