第5話 風が交わる瞬間
訓練翌日の朝。
アストラ魔法学園の空には、薄い雲が流れていた。
昨日の連携訓練で見せた星宮星牙とレン・フレイムハートの戦いは、
すでに学園中の噂になっていた。
「おい、聞いたか? 一年の二人、もうA級ゴーレム落としたらしい」
「マジ? あのフレイムハートって子、序列四十……いや、五十近くだろ?」
「しかもパートナーが星宮。あの目立たないやつ、何者だ?」
噂話が飛び交う中、星牙はいつも通り教室の席に座っていた。
レンはいつものようにパンをかじりながら、
「ねぇ、聞いてる?」と横から肘でつついてくる。
「……耳はある」
「そうじゃなくて! ちょっとは反応してよ!」
「別に褒められても、何も変わらないだろ」
「ほんとそういうとこ!」
レンが呆れたようにため息をついた時――教室の扉が開いた。
ひんやりとした空気が流れ込む。
「失礼します」
入ってきたのは、氷のような雰囲気を纏う少女だった。
銀がかった髪を肩で切り揃え、淡い青の瞳が静かに光る。
彼女の名はクレア・リンドウ。
Sクラス一年、序列42位。
風と水、二つの属性を操る才女。
「クレア・リンドウです。教官に呼ばれて」
短い言葉。
それだけで教室の空気がぴんと張りつめた。
彼女の視線が、まっすぐレンを捉える。
わずかな時間。
けれど確かに、二人のあいだに“風”がぶつかり合った。
「へぇ、クレア・リンドウ。名前は聞いたことある」
レンが軽く笑ってみせる。
「同じく」
クレアの返事は短いが、冷たくはなかった。
その奥には、確かな闘志がある。
「……感じるな」
星牙が小さく呟いた。
「風の流れが乱れてる」
「また観察モード?」
レンが振り返ると、星牙はノートにさらりと線を引いた。
「違う。ただ、似た風が二つあれば、ぶつかるのは自然なことだ」
「ふーん……なんか難しい言い方するね」
「いつも通りだ」
「……ほんと変わんないなぁ、あんたは」
そんな他愛もない会話の裏で、
クレアは静かに席に着いた。
しかしその瞬間、
窓の外を流れる風がわずかに揺らぎ、
教室のカーテンが音もなく揺れた。
「……始まるかもね」
レンが小さく笑った。
星牙はその横顔を見つめ、
(“風の交わり”か……悪くない)と、
心の中で呟いた。
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