第4話 訓練開始 ― 連携の初日 ―

朝の訓練場は、霧がかかっていた。

 魔力を帯びた湿気が地面を包み、陽光を柔らかく散らす。

 星宮星牙はレンと並んで立ち、教官の号令を聞いていた。


 「今日から実戦形式の連携訓練を始める!

  ペア同士で動きを合わせろ。攻撃・防御・支援、全てだ!」


 ざわつく生徒たち。

 新入生にとっては初めての実技授業だ。


 「星牙、私たちペアだね」

 レンが笑い、杖を軽く振る。

 風が渦を巻き、彼女の髪がふわりと揺れた。


 「手加減なし、だろ?」

 「望むところ」


 二人が同時に構えた瞬間、教官が指を鳴らす。

 空間に淡い光が走り、訓練用ゴーレムが五体、生成された。

 いずれも金属質の肌と、鈍い蒼光を放つ瞳。


 「レベルはAランク。初日には上等だな」

 星牙の目がわずかに細まる。

 「……動きの癖、左前重心だ。風で押せ」

 「了解!」


 レンの魔法陣が瞬時に展開。

 突風が走り、ゴーレムのバランスが崩れた。

 そこへ星牙の杖――刀に変形した刃が閃く。


 「星撃――破衝」


 光の奔流が直線状に走り、ゴーレムの胴体を真っ二つに裂いた。

 残る四体が一斉に突撃してくる。


 「風壁、展開!」

 レンが旋風を広げ、砂煙が舞い上がる。

 星牙はその影から飛び出し、指先をひと振り。


 「結界操作――斥力固定」


 前進してきた一体が、まるで見えない壁にぶつかったように停止する。

 そのまま背後からレンの一撃が炸裂。


 「風斬ウィンドカッター!」


 金属の体が風の刃に切り裂かれ、地面に崩れ落ちる。


 ***


 「よし、二人ともそこまで!」

 教官が声を上げた。

 倒れたゴーレム五体の残骸を見て、生徒たちは一瞬息を呑む。


 「……やるね」

 隣のクラスの男子が小声で呟く。

 「星牙とレンって、まだ入学したばかりだよな……?」


 星牙はその視線を気にせず、刀を杖の形に戻した。

 レンが軽く肩をすくめる。

 「さすが。私、少ししか風を使ってないのに」

 「お前の風がなければ、間に合わなかった」

 「ふふ、素直に褒められると嬉しいね」


 彼女の笑顔を見て、星牙の口元にもわずかに笑みが浮かぶ。


 ***


 授業後。

 星牙が訓練場を後にしようとした時、背後から声がかかった。


 「星宮星牙。少し時間をいいか?」

 振り返ると、そこにいたのは学院長――星宮時継。

 他の生徒が一斉にざわめいた。


 「……学院長が、直々に?」

 「何があったんだ……?」


 星牙は静かに頷き、祖父の後をついて歩く。


 「今日の訓練、よく見えていた。

  お前は“間”を支配していたな」

 「……間、ですか?」

 「そうだ。相手の動きを見てから動くのではなく、

  “動く前”に空間を読んでいた。星宮家の者しかできん芸当だ」


 時継は杖を突き、静かに言葉を継ぐ。

 「その感覚を、絶対に失うな。

  星を視る者は、時を読む者より稀だ」


 星牙は一瞬だけ祖父を見た。

 「……はい」

 今度の返事には、確かな意志があった。


 時継は微笑む。

 「いい返事だ」


 そして去り際に、小さく呟いた。

 「——あの時よりも、ずっと“星”が近いな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る