第2話 序列戦観戦
アストラ魔法学園、中央闘技場。
百名を超える新入生が観客席を埋め尽くし、ざわめきが空を震わせていた。
「これが“序列戦”か……」
レンが隣で呟く。
星牙は黙って、結界の中心を見つめていた。
砂地の決闘場の中央には、二つの人影。
どちらも3年生――シオン・レインハルト(34位)と霧島レオ(30位)。
学院でも名の知れた二人だ。
白い髪に蒼い瞳のシオンは、静かに杖を構える。
彼の周囲の空気は冷え、薄い霧のような魔力が漂っていた。
一方、レオの足元には赤い亀裂が走り、熱が空気を歪める。
炎と地の魔法、攻撃特化型。
審判が声を上げた。
「これより模範試合を開始する! 両者、構えを!」
場内のざわめきが止む。
次の瞬間、轟音が響いた。
「《マグマ・ライジング》!」
レオが地を叩くと、床の岩盤が盛り上がり、灼熱の柱が吹き上がる。
空気が震え、観客席の結界が青く光った。
シオンはその中で、一歩も引かない。
「《氷盾(フロスト・ガード)》。」
透明な氷壁が彼を包み、炎の波を受け止める。
だがレオは笑った。
「防御ばっかしてたら溶けるぜ、シオン!」
その足元から、マグマが蛇のように走る。
シオンは詠唱を重ねた。
「《氷刃連陣(アイス・バースト)》!」
瞬間、氷の刃が無数に飛び、炎の蛇を粉砕する。
蒸気が弾け、白と赤が入り混じった。
視界を奪う濃霧の中、二人の声だけが交差する。
「本気出せよ、レオ!」
「言われなくても!」
爆ぜた炎が霧を吹き飛ばす。
レオの背後に、巨大な火炎の獅子が現れた。
「《炎王召喚(フレイムロード)》!」
観客が息をのむ。
「召喚系!? 上級生でも使える奴ほとんどいねぇぞ!」
シオンの眉がわずかに動く。
「やれやれ……派手なのは嫌いなんだけどね。」
杖を振り下ろす。
「《氷界展開(フロスト・ドメイン)》!」
闘技場全体の温度が一気に下がり、空気が凍てついた。
氷と炎――二つの領域がぶつかり合う。
結界の中心が歪み、地面が悲鳴を上げた。
星牙は腕を組み、冷静に見ていた。
(領域展開……。炎と氷が同時に存在できるはずがない。
けど、レオは魔力の“流れ”を操作してる。力任せじゃない……調整してるのか。)
爆音が鳴り、両者の間に光が閃いた。
炎獅子が吠え、氷壁が砕ける。
それでも、シオンは退かない。
「まだ終わってない。」
氷の破片が宙を舞い――
彼の杖先に一点、淡い光が凝縮される。
「《クリスタル・ランス》!」
氷の槍が一直線に飛び、炎獅子の額を貫いた。
爆炎が弾け、風が吹き荒れる。
レオが片膝をつく。
炎がかき消え、静寂が戻った。
審判の声が響く。
「勝者、シオン・レインハルト!」
観客席がどよめいた。
「マジか……あの炎王を押し返した!?」
「さすが氷系最強って言われるだけある……!」
レンが目を輝かせた。
「すご……本当に氷の城みたいだった!」
星牙は小さく頷いた。
「精度が高い。無駄な魔力消費がほとんどない。」
「分析してる顔、してる。」
「癖なんだよ。」
「ふーん、じゃあ今度私の魔法も見てよ。」
「……機会があれば。」
そんな他愛ない会話をしている間にも、闘技場では氷が溶け始めていた。
蒸気が陽光を反射し、虹のような光を描く。
星牙の目だけが――その光の中に、わずかな歪みを見逃さなかった。
(……魔力の流れが、地層の下から逆流してる?
これは……不自然だ。)
彼の眉がわずかに動く。
それは、この後“アストラ全土”を揺るがす兆候のひとつだった。
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