第1話 入学

朝の光が、魔導都市アストラを金色に照らしていた。

宙に浮かぶ街並み、遠くに見える魔法塔。

その中心にあるのが――アストラ魔法学園。


「……やっぱり、でかいな」

星宮星牙は立ち止まり、灰蒼の瞳で校舎を見上げた。


彼は今日から高校一年生。

誰も知らないが、学園序列ではすでに匿名の1位にいる。

それでも本人はただ、“普通の生活”を望んでいた。


「おーい! 星牙っ!」


背後から明るい声が響く。

振り返れば、赤茶の髪を揺らした少女――レン・フレイムハート。


「やっと来た! ほら、初日だよ!」

「……そんなに焦ることでもないだろ」

「あるよ! だって入学式だもん!」


頬をふくらませるレンに、星牙は苦笑を浮かべた。


「……相変わらず元気だな」

「それ、褒め言葉として受け取っとく!」


二人が並んで校門をくぐる。

上空の結界が淡く光り、二人の魔力を認証した。


「これで正式に入学完了っと!」

「……ようやく“普通”が始まる」


星牙の小さな呟きに、レンが首を傾げた。

「普通ってなに?」

「授業受けて、昼飯食って、ちょっと眠くなって……そんなのだよ」

「……それを星牙が言うと、逆に怖いんだけど」


二人が笑い合う中、鐘の音が鳴り響いた。

入学式の始まりを告げる音。


式場に集まった新入生の前に立つのは、一人の少女。

白銀の髪に、凛とした立ち姿。

――白銀由璃、生徒会長であり、序列第3位。


「新入生の皆さん、入学おめでとうございます。

 この学園での時間が、あなたたちの未来を導く光になりますように。」


その声は澄んでいて、どこか温かい。

星牙は思わず視線を向けた。

隣でレンが小声で囁く。


「ね、綺麗でしょ? 白銀由璃先輩。憧れの人、多いんだよ」

「……なるほど。確かにそうだな」


風が吹き抜ける。

空は高く澄み、光の魔法陣が淡く回る。


――星が瞬くたび、運命は静かに動き出す。

まだ誰も知らない物語の始まりだった。

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