第56話 別れの春

 戦後処理が一区切りついたある日、オクタヴィアはコンスタンティンからの正式な帰国命令を受け取った。


「兄上が、わたくしを呼んでいるの。戦後の宮廷の立て直しもあるし……アウル、あなたの留学は続くのよね」


「はい。エドワード殿下と共に、あと半年はここで学ぶ予定です」


 オクタヴィアは小さく頷いた。

「なら安心だわ。……でも、あまり無茶をなさらないように」


 彼女がエドワードの方を見ると、王弟は苦笑して肩をすくめた。

「姉上ほど無茶はしませんよ」


 オクタヴィアはふっと笑い、久しぶりに穏やかな表情を見せた。


◇◇◇


 数日後、オクタヴィア一行は侯国から王国へ向けて発った。

 侯国の人々が見送りに集まり、竜騎兵団のジークリートやエミールも敬礼で送り出す。


 アウレリウスは最後まで彼女の馬車の横に立ち、扉が閉まる直前、彼女と視線が合った。


「必ず戻りなさい。……あなたが無事でいることを、心から祈っているわ」


 馬車がゆっくりと走り出す。

 エドワードはその後ろ姿を見送りながら、小さく息を吐いた。

「さあ、留学生活に戻らないとね。僕らの仕事はまだ終わっていない」


 アウレリウスは深く頷き、再び法務庁舎と旧ローゼンタール邸での日々が始まった。

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