第37話 王、動く

 侯国の街道沿い、夜の帳が落ち始め、赤く染まった空を背に、竜騎兵団の兵たちが整然と並び立っていた。

 鎧の金具が夕陽を反射し、規律正しい馬蹄の音が地面を震わせる。


 先頭に立つのは団長ジークリート。鋭い瞳が街道の先を射抜いている。その横で、扇を片手にしたエミールが艶やかに微笑んだ。


「殿下方――」

 ジークリートの声が、雷鳴のように響いた。

「竜騎兵団はこの命を賭して、王女殿下を必ずや奪還する!」


 兵たちが一斉に槍を掲げ、鬨の声が空を震わせる。


「進撃――!」


 号令一閃。竜騎兵団はまるで一匹の巨大な獣のように動き出し、鉄の奔流となって街道を駆け抜けた。馬蹄の響きが大地を叩き、侯国の旗が風を切り裂きながら翻る。


◇◇◇


ヴァレンシュタイン王国・王宮 玉座の間


 一方その頃、王都。

 王宮の玉座の間に、使者が駆け込んできた。


「急報――! 王女殿下が侯国で拉致されました!」


 使者の声が静まり返った玉座の間に木霊する。 重苦しい沈黙の中、玉座に座るコンスタンティンの瞳が、氷のように冷たく光った。


 彼はゆっくりと立ち上がり、低く、しかし確実に場を震わせる声で言い放った。


「――ウルバヌスを呼べ」


 その瞬間、場にいた誰もが理解した。

ここから先は、王国が本気で動き出すのだと。

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