第15話 紅の邂逅
休庁日の市場。
護衛に囲まれ、アウレリウスが贈り物選びに頭を抱えていた。
「つけ襟も髪飾りもブローチも渡したし……もう何を贈ればいいのやら」
「贈り物の頻度を少し下げてもいいのでは? 手紙を全く送らないかと思えば、今度は高頻度での贈り物……。不器用にも程がありますよね」
クレメンスの苦言に周囲から笑いがこぼれる。
アウレリウスが髪飾りを手に悩む一方で、エドワードの視線は無意識に「イザベラに似合うもの」を探していた。
そのとき、視線がふと止まる。
古本屋の前に、ローズレッドのワンピースを纏った女性――イザベラが立っていたのだ。
「まあ、殿下。奇遇ですね」
声をかけられ、一瞬言葉を失う。思い描いた矢先の再会に、胸がざわめいた。
◇◇◇
さらに次の再会は研究所の廊下だった。
イザベラが道を譲り、軽く礼をする。
「……こ、こんにちは、イザベラ嬢」
初めて、エドワードから声をかける。
「ご機嫌麗しゅうございます、殿下」
「市場で会ったね。本を探していたの?」
イザベラは少し俯き、頬をわずかに赤らめる。
「……はい。時々古本屋で掘り出し物を探すのです。お恥ずかしながら、それくらいしか趣味がなくて」
「素敵な趣味だと思うよ。……その、僕も見てみたいな」
言い終えた瞬間、胸が跳ねる。
イザベラも驚いたように瞬きをし、かすかに笑んだ。
そのとき、彼女が差し出した資料を受け取ろうとした瞬間――
「殿下のお体に触れることはご遠慮ください」
ギルベルト団長の鋭い声が落ちた。
イザベラははっとして手を引き、「申し訳ありません」と下がる。
けれど再び見せた笑みの奥には、わずかな熱が揺れていた。
それを、エドワードは見逃さなかった。
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