2 異世界と言えば-1
鏡の前に座り、ちょっと歳を食ったメイド長、カリーナに髪をとかれているその少女は、考え事をしているような難しい顔をしている。
そう、俺です。
転生を果たしてからもう5年がたった。
時の流れって恐ろしく早いね。
鏡にうつる美少女はパッと見の雰囲気は母親似だ。何より目を引く美しい金髪を前は中で分け、後ろはユルい縦ロールだ。
しかし少し切れ目の目元に蒼い瞳と顔立ちは父そっくりである。
揺れる乳児用ベッドから覚醒した俺は、
この異世界の貴族『ヴォルフフォード家』の長女として生活を送っていた。幸い言葉は何故か最初から理解出来ていたため、コミュニケーションに苦労することとかはなかった。
読み書きは一から勉強しなきゃだったけど。
そして、貴族としての勉強、教養を学びつつ、この世界、自分の身の上について調べた。
まず、今世の俺はヴォルフフォード家の長女『シーナ・ヴォルフフォード』5歳。上に兄2人、下に弟、妹が1人ずつ、そして両親の7人家族。俺が生まれる少し前まで祖父もいたようだが、旅に出るとかいってそのまま行方不明らしい。
俺がいるヴォルフフォード家は『ランブル王国』という国に仕えているようだ。
ヴォルフフォード家は王国の騎士として割と長く仕え、昔はそれなりの信頼があったが父が納める領地は王国首都から結構離れている。
何となく気になったので父に理由を聞いてみたら、現在行方不明の祖父が要らんことやって、現国王にこの地まで左遷されたらしい。
要らんことの詳細が気になったが、父は
「お前は知らなくていい」と教えてはくれなかった。さて、身の上についてはここまでにしてこのままダラダラ過ごすのもいい。が、俺は思った。本当にそれで良いのか?と。何も考えず、このままボーッと過ごしていけば、前世と同じ何もないつまらない人生で終わるのではないかと...!
それは嫌だ。すごく嫌だ。ではどうすれば前世で夢見た山あり谷ありの人生を遅れるのか?
強さだ!賢さだ!何者よりもビッグな人間に慣れれば、誰にも生き方を邪魔されない人間に慣れれば、好きなことを好きなだけできるすんばらしい人生を送れる!ハズ!
そう考えた俺は、屋敷の図書室にて色々調べていた。
調べてわかったことの1つなのだが、この世界には、どこかの漫画やアニメよろしく 魔力・魔法 が存在しているらしい。
闇魔法!ブラックホール!!!
とかやってみたかったが、残念ながらそれぞれの家、血筋で使える属性? が決まっている。
ちなみにヴォルフフォード家が使えるのは火の魔法だ。まぁ、かっこいいからいいか。
要は使い方次第だ。母のように料理中の使用人に「火をつけてあげる♪」とか言ってボヤ騒ぎ起こしたり、父のように、執務中に出たいらない書類燃やしてそれが実はめちゃくちゃ大事な書類で泣いたり。
そんなつまらない使い方はしない。
いや多分する。だっていつでも火が使えるの便利やん?いや、そうじゃなくて、
やっぱり魔法を使うなら戦いとかだ。
この世界、建築や兵士の装備など、技術面を見ると中世ヨーロッパに近いものと思われる。
ありがちな異世界...だよな?
まぁそれゆえらしい問題というのもあったりするということ。
疫病が蔓延した歴史もあったり、
貧しい農民が自国に対して反乱を起こしたり、
さらには国家間の戦争。
サバトしすぎな世界と言うわけでもないが当然そういう問題が起こりえる世界ということだ。
その上現国王はかなりの平和主義者、そして事勿れ主義者ときているらしい。
戦い、戦争が嫌いなのはいいが、脳天気で戦争に対する意識が低いとの事。
それのしわ寄せが基本王国内領土の領主に来る。中間管理職はどの世界でも大変なのは変わらないらしい。俺の前世もそうだった。
あのク○上司がっ....いっつも面倒事押し付けてきやがって....挙句ダメ出しの嵐ときた。思い出すだけで腹が立つ。おっと、前世の話はこれぐらいで...
ま、つまり何が言いたいかと言うとだ、
この世界で自由に生き抜くためには戦う力を身につけなければいけないと言うことだ。
そういう訳なので
「私に魔法を教えてください。」
そう言い頭を下げた相手は我が兄、
長男『アイン・ヴォルフフォード』
少し長めのこげ茶色の髪を後ろにまとめた、蒼い瞳、優しい顔立ちの7才だ。
子供だと侮るなかれ、既に剣術において彼の右に出るものはこの家にはいない。さらに、時たま父の執務を手伝っているなど頭も良い。まぁ、簡単に言うと天才肌。なんでもそつなくこなしてしまう。
当然、魔法もね。
はぁ、こんなやつが将来大企業を、ひいては国を引っ張る人材になるんだろうなぁ。
...いかんな。どうにも前世のことを思い出してしまう。いい記憶とかあんまりないからもう思い出すのはよそう。
考え事をしていると、苦笑いを浮かべた兄から答えが帰ってきた。
「うーん、かまわないけどどうしてまたぼくに?父上とか母上にもおしえてもらうことはできるだろ?」
「お父様とお母様はだめです!あの二人は10を聞いても1しかかえってきません!」
「辛辣....」
「その点、アインお兄様は10聞けば10、きっちり帰ってきますし。」
「なるほど。でも、やっぱりなんで急に魔法を?母上見たく料理とかしてみたくなったの?」
「違います。シーナは戦いたいのです!」
「ふむ...」
「シーナは知りました!昔から戦争や争いが起きています!シーナもお家のために戦いたいのです!それにかっこいいと思ったのです!」
「ほう?」
「訓練所で魔法を使い、剣を振るお兄様方の姿が!流れる汗や燃え盛る炎に舞い散る火の粉、それらと合わさったお姿はまるでひとつの芸術作品のようで...」
「お、オーケーオーケー!もういいから!!」
顔を赤くしたアインが俺の言葉を遮る。
アイン・ヴォルフフォード。妹にとことん甘い男である。おだててあげると割となんでもしてくれる。
許せ、兄よ。これも全て愛する妹の。ついでにお家のため...。
「わかった。そこまで言うなら教えるよ。」
「ありがとうございます!!!」
そしてこの日より俺の訓練は始まった。
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「まず、魔法を使うには、体の中に秘めている魔力を外に解き放たなければいけない。」
訓練初日。俺はアインから魔法を使うための基礎を学んでいた。
「体の中に秘めた魔力?」
「そう。人々は皆、多かれ少なかれ魔力を確実に秘めている。それを体の全体、あるいは一部から体外へ放つんだ。やって見せよう。」
そういうとアインは少し離れて目を閉じた。
少しするとアインの体から真紅オーラのようなものが湧き出てきた。
「おお....!!」
思わず声がでる。カッコイイ!すごいやってみたい!
数秒してオーラが消え、何か満足そうなアインが近ずいてきた。
「こんな感じかな。」
「すごいです!かっこよかったです!お兄様!」
「そ、そう?」
「はい!私も早く魔力出してみたいです!」
「ん、わかった。説明するよ。と言っても、アバウトにしか言えないけどね。」
「?」
「うーんなんて言うのかな。父上とかに聞いても同じだと思うんだけど、魔力の放出も魔法を使うのもその人がイメージして使うものなんだ。」
「イメージ...」
「そう。僕の場合は...そうだな、息と一緒に力を抜いて、色んなものを外に放してやるイメージかな。」
なるほど、わからん。
まぁ、こればっかりは言っていた通りその人次第なんだろう。
とりあえず、アインが言うイメージでやってみよう。
俺はアインから離れて訓練所の中心に立ち、大きく息を吸う。そしてゆっくりと息を吐き、脱力しながら頭の中でイメージする。
「体の中から外へ。色んなものを放すイメージ。」
瞬間、ゴウッと俺の周りに蒼いオーラが溢れ出る。
「わぁ...!」
できた...!すげぇ!!カッッケェ!!!
しかし、出てきたオーラの色はアインと違うな。俺の方がなんか広がる範囲も広い気がする。これも人によってなのかな。
考え事をしていると、興奮気味のアインが駆け寄ってくる。
「すごいよ!シーナ!こんなに魔力が多い人は初めて見たよ!しかも説明してすぐにできちゃったし!」
やっぱりそういうことか。オーラが広がる範囲は魔力量の多さの指標になるみたいだ。
しかし、俺...ていうかシーナにはこんなに魔力がこもってたのか。そんなことを思いつつふと思う。
「お兄様。これ勝手に戻るわけじゃないんですの?」
「ああ、うん。戻す時はまた戻すイメージがいるよ。僕はさっきと逆で息を吸いながら入ってきたものを体の中に閉じ込めるイメージだね。」
アインが言うイメージで魔力を戻そうとしてみる。すると、周囲に漂っていたオーラが自分に吸い寄せられるように集まり、やがて全てが俺の体の中に消えていった。
「...これが、魔力の放出......」
「うん。それにしても教えてすぐにできるなんて、シーナは魔法もすぐできるようになるかもね。」
「ほんとですか!」
「できるさ。でも、今日はここまでだね。さっき思い切り長い時間魔力を放出しちゃったから。やりすぎは体に毒だ。」
力強くできると言って貰えてテンションが上がりつつ今日はもう終わりということに落胆して「はぃ...」とションボリ。
でもなんか疲れているのは事実なため素直に従っておく。次の訓練が楽しみである。
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