翻訳さん。Short Story 2 『ハロウィン』
南村知深
前編
一時限目の英語が終わり、休み時間になった。抜き打ちで行われた小テストの緊張感から解放されたクラスがにわかに騒がしくなる。
そんな中、私はじっと、ある計画を練っていたのだった。
「……どうしたの、リッちゃん。怖い顔して」
それを
「小テスト、ダメだったとか?」
と、ケイの後ろから同じく友人の
残念ながら、その推理は外れだ。
この私、
それはケイもわかっているようで、そんなわけないでしょ、とユキノにツッコミを入れていた。
そんな二人のやりとりが途切れた瞬間を待って、私は芝居がかった感じで表情を消して重々しく口を開く。
「ケイ。ユキノ。放課後、二人にしてもらいたいことがある。重要なことだ……頼まれてくれるかね?」
「いいよー」
「オッケー」
「
拍子抜けして苦情を言っても、二人はどこ吹く風と笑っているだけだった。
いつもそんな感じで、私のネタに私が思っている通りには決して乗らず、私を残念がらせて楽しむ。そのくせ向こうのネタで私を無理矢理巻き込んでくる。そういうやつらなのだ、彼女らは。
とはいうものの、私はそれを
何をさせられるのかもわからないうちから私の頼みごとを即答で承諾してしまうようなお
「で? 何をすればいいの? 仮装の手伝い?」
「さすがケイ、話が早い」
察しのいい返答に、我が意を得たりと笑みがこぼれる。
そう、今日は『ハロウィン』だ。行事の本来の意味はともかく、今の日本では仮装して楽しむ日というような認識となって久しい。
私もそれに
「仮装して、上有住さんからお菓子をもらおうってつもり?」
「ふっふっふ。そんなわけないでしょうが」
「と言うと?」
「いいかい、君たち。ハロウィンで『
「つまり?」
問い返してくる二人に会心の笑みを見せ、私は計画の
「ミカにイタズラし放題ってことだよ。ワトスン君」
「そんな外道なホームズは心底
ケイがわりと真顔でそう言うと、ユキノも同意だと無表情でうなずいた。
やっぱり乗ってこないな。いや、乗った上でボケ潰しを仕掛けてきた感じか。二人ともこういう方面における頭の回転の速さは異常で、毎度のことながら上手くあしらわれてしまう。
「まあ、ちょっとしたイタズラはするけど、ミカが本気で嫌がるようなことはしないよ」
「知ってるよー。リッちゃんがそんなことしない優しい子だってことはさ。少々のことなら上有住さんも許してくれるだろうし。でも、それに
「忠告、感謝する。じゃ、お二人さん。放課後よろしく」
『任せて。報酬は学食のアイスでオッケーなので』
ケイとユキノがそれはもう綺麗な
事前に打ち合わせたわけでもないのに息ぴったりで、この二人はもう結婚したほうがいいんじゃないかとすら思ってしまった。
放課後。
いつものようにミカが
と言っても、やることは
「んー……こんなもんかなー」
「いいんじゃないの?」
包帯を巻き終えた二人がそんなことを言いつつ、私の周りを歩いて回る。
差し出された鏡を見ると、なんとも見事な『ミイラ』がそこにいた。頭に巻いた包帯の隙間から髪がこぼれ出ていたり、落ちくぼんだ片目が不気味に覗いていたりと、素人の即席作業のわりに悪くない仕上がりだった。
「でも、なんでミイラなの? 百均ショップに行ったんなら、ヴァンパイアとか魔女とか狼男とか、そういう定番の衣装を売ってたでしょ?」
と、ユキノ。
もっともな意見ではあるが、ミイラを選んだのには深い
「ハロウィン前日に考えることはみんな同じなんだよ、ユキノ。昨日私が行ったときにはほとんど品切れで、イヌ耳とネコ耳のカチューシャしか残ってなかったの。だから包帯を買うしかなくて」
「別にそのカチューシャでよかったんじゃ?」
「そうなんだけど……なんというか、イヌ耳もネコ耳もメジャーすぎて、あざとい気がしてねぇ……。もうちょっとマイナー寄りのケモミミならよかったというか。まあ、これは私の
「こだわるところがピンポイントすぎる……」
げっそりとそう呟きながら、ケイは包帯の隙間から私の髪を引っ張り出してディティールを整える。この子もこういうイベントごとは結構こだわるところがあるし、お互い様だろう。
そうして整え終えた私を遠目から見て、ケイは「よし」と一つうなずいた。
ユキノも後ろに回り込んだりしながら確認し――ふと思いついたように問いかけてくる。
「……ところでリッちゃん、頭大丈夫?」
「おうコラ、ケンカ売っとるんかいのぉ、ユキノさんよぉ?」
変な方言を出しながら、急に失礼極まりないことを放つユキノをにらみつけた。包帯のせいで視界が狭い上に片目しか開いていない状態なので、そばにいるはずのユキノを探してきょろきょろしてしまって威圧感はゼロだったが。
「そうじゃなくて。包帯を締め付け過ぎてないかってこと。痛くない?」
「ああ、そういう……伸縮性あるし問題なしだね。あとはアクセントとして包帯に
「血糊? あたし持ってるよー」
『なんで持ってんの⁉』
想定外すぎるケイの反応に、思わず私とユキノがツッコミを入れる。
しかしケイは「イマドキ
ともかく、これで立派な『ミイラ女』のできあがりだ。
「ありがと、ケイ、ユキノ。いい仕事してくれたよ。さっそく行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
「上有住さんによろしく」
仮装記念の写真を三人で撮ったあと、私は
……その途中でクラス担任(
後編に続く
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