第一幕:章2 パーティーの誘惑
渋谷PARCOの屋上ガーデンは、2025年の夜に輝く秘密の楽園だった。ネオンの光がビルの谷間から漏れ、人工芝の上にDJブースが脈打つ。モンキー・クルーのパーティーは、渋谷の若者たちで溢れかえっていた。スピーカーから流れるエレクトロとヒップホップのミックスが空気を震わせ、LEDランタンが色とりどりに揺れる。レイは仲間たちに囲まれ、ビールを片手に笑顔を振りまくが、心のどこかで昨夜のスクランブル交差点の少女を追いかけていた。
「レイ、ほら、ライブ配信始めるぞ!」マキがスマホを掲げ、フォロワーに向けて叫ぶ。「モンキー・クルーの夜、渋谷PARCOから全世界へ!」コメント欄が「」で埋まる中、レイは無理やりテンションを上げる。だが、ユリのIDを握り潰すようにスマホをポケットに押し込んだまま、彼女にメッセージを送る勇気が出ない。
ベンがスケボーを滑らせながら近づいてくる。「お前、なんか浮かねえな。昨夜のキャットの野郎にビビったか?」レイは笑って誤魔化す。「まさか。タイの顔、猿よりブサイクだろ?」仲間たちの笑い声が響くが、レイの目は群衆の向こうを彷徨う。その時、PARCOのエスカレーターを上がってきた一団にざわめきが走る。キャット・クルーのタイが、派手な赤いジャケットで現れたのだ。「おっと、モンキーのパーティーに招待されてねえのに来ちまったぜ!」タイの声に、場が一瞬凍る。レイが前に出ようとすると、マキが肩を押さえる。「落ち着けよ、レイ。コイツ、ただの挑発だ。」
だが、レイの視線はタイの後ろにいた少女に釘付けだった。ユリだ。キャット・クルーの一員として、彼女はタイの隣で少し気まずそうに立っている。白のパーカにビビッドなスカート、ヒカリエのショップで試着してそうな洗練されたスタイル。彼女の目がレイと絡み合い、昨夜の交差点の熱が蘇る。
「ユリ…」レイは無意識につぶやき、群衆を掻き分けて近づく。タイが気づき、鋭い視線を投げる。「おい、モンキーのガキ、うちの姉貴に何の用だ?」ユリが慌てて手を振る。「タイ、いいよ、ただの…知り合い。」その言葉に、レイの胸が軽く締め付けられる。
パーティーの喧騒を抜け、レイはユリをPARCOの1階、ファッション雑貨のポップアップストアに連れ出す。色とりどりのアクセサリーやスニーカーが並ぶ中、二人は立ち止まる。「昨夜、交差点で…俺、お前のこと忘れられなかった」とレイが言う。ユリは照れ笑いを浮かべ、棚のネックレスを手に取る。「私も…あの瞬間、なんか変だった。渋谷の夜って、いつもこんな魔法かけるの?」
レイが彼女の手を握り、試着室のカーテンの陰で軽くキスを交わす。ユリの唇は、渋谷のネオンのように暖かく、ほのかに甘い。だが、その瞬間、店の外で叫び声が上がる。タイとマキが揉み合いを始め、キャット・クルーとモンキー・クルーの仲間たちがエスカレーター付近で乱闘寸前。ユリがレイの手を離し、「ごめん、行かなきゃ…」と走り出す。
「待て、ユリ!」レイが追いかけようとすると、タイが立ちはだかる。「モンキーのガキ、覚えてろよ。この街は俺らのもんだ。」ユリは振り返り、レイに一瞬だけ悲しげな目を向ける。パーティーのビートが再び響き始め、レイは雑踏の中で彼女の背中を見失う。PARCOの屋上から見下ろす渋谷の夜景は、まるで二人の心を映すように、輝きと混沌が入り乱れていた。
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