第14話
智衣は、キャリーバックを引きずりながら歩いていた。
依頼された絵を描きに、アトリエに向かっていた。
駅に向かっている途中千秋に呼び止められ、智衣は振り向いた。
「俺を待ち伏せていたのか。暇人だな」
「失礼ね。まだ、仕事に行く時間じゃないからよ。それより、広瀬君に見せたいものがあって」
千秋は、智衣に二枚の写真を見せた。
その写真を見た智衣は、凍りついたように立ち尽くした。
「広瀬君、何を怯えているの?」
「あんたが、撮ったのか?」
「そうよ。アタシが、撮ったの。そして、あずさに写真を送りつけたわ」
智衣は写真を手にしたまま、千秋をみつめていた。
「良かったわね、あずさ写真を捨てたと言っていたわ。あずさには、何も話していない。だからさ、毎月五十万払ってよ」
「なんであんたに、そんなことをしなきゃいけないんだよ」
「口止め料に、決まってるじゃない。かわいそうよね、この写真の女の子。ひかるさんだっけ」
この言葉で、千秋は何もかも知っていることを智衣は知った。
「広瀬君がやってきたことを思えば、たいした金額じゃないでしょ」
黙り込む智衣に、千秋は言った。
「いいわ。よく考えるのね」
千秋は、智衣から離れた。
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