第十五話 おんなじ

 ピサメ、に。



 体が動かないあの感覚。

 鞄に付けられているため視界が不良。


 そんな、いつもの感覚。


 おじさん――木村が驚いている。


「なんだこれ。夢。夢か? さっきまで、動けなくて。死んだ、のかと。でも」


「きみちゃん、どうしたの? なんか変だよ、さっき……ううん、昨日から」


「沙良、沙良ちゃん、沙良ちゃんだ、よかった、怖かった、僕は……」


 その後の二人は。もう。

 ただれて、いる。

 


 見たくない、見たくないのに、――ぬいぐるみは目が閉じれない。



 見るしかないんだ。


 ただ、見るしか。


 ――ああ、涙も、出せない。



 私は出会う。


 柔らかい、物腰。 


 たおやかな、言葉。


 なのに、爽やかで、鮮やか。


 力強く、私を包み込もうとしている。 


 私はそれに、身を委ねたらいいのかもしれない。


 でも。


 貴方はどこまで見ているの。


 見えて、いるの。


 結局、私を上滑りするような、そんな存在なの?


 過去の人は皆そうだった。


 私の上を、ただ滑っていく。


 そんな存在。


 滑られた私。踏まれて、滑られた存在の事は考えないの?


 踏みつけにされた私は。


 結局貴方も、私を踏みつけにするだけの存在なの?



 二人は知らず知らずのうちに消えていた。

 俺は、気を失っていたらしい。



 パパ活。


 沙良の、闇。



 これが、これがぬいぐるみたちが言っていたことか。

 これをこそ、ぬいぐるみたちは嫌がり、ピサメが止めたがった。


 そしてピサメは、俺になった。更には沙良の彼氏に。

 おそらく、沙良の彼氏になればアイツを、木村を遠ざける事ができると、そう思ったんだろう。


 でも。


『ピサメ……大丈夫?』

 ぬいぐるみたちが俺を心配している。気づかわし気な声が、飛び交う。


『アイツと、入れ変わっていたのですね』

『元ピサメ――芳樹と、おんなじだ』


 芳樹と、おんな、じ……?


『あのね、芳樹……元ピサメもね、あのおじさんと入れ代わっていたんだ。いっちゃん始め、沙良とおじさんが枕を共にした、あの時に。でも沙良は』


『沙良は』


『おんなじだったわ、今日の光景と。私たちはピサメ経由で聞いただけだけれど』


『いかがわしいホテルの中、アイツと入れ替わって沙良を説得したそうです。でも沙良は。沙良は……アイツに心底。心酔していた。しかも止めたことで返って逆効果だった、と。私の事をそんなに考えてくれるだなんて、と沙良を余計に感激させてしまった。おじさんの体では、駄目なんです。今の君の、ように』


『沙良は悪い魔法に、かかっているんだと、そしてその片棒を担いだのは。――私なんだと、ピサメは嘆いていたわ。後悔、していた』


『かた、ぼう……?』


『おじさんの体で沙良の事を心配したことを言っているようでしたね。それで、余計に深みにはまりましたから』


 そんな状況。――だった、のか。

 

『俺は。どうしたら……』


『ピサメと協力したらいいのではないですか? ピサメは今、芳樹です。おじさんでは――ない。だから』


 元ピサメ――芳樹と、手を組む。もはや残された道は、それしか……


『芳樹と連絡とろう』


『でも、どうしたらいいのかしら』



『大丈夫。手は、ある』

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