第十話 解せない

 来たのは、――なんだか高そうなレストランだ。


 芳樹、だいぶ張り切ったな?


 こんな資金はどこから……



 俺はそんなに金を残していただろうか? またしても心の中で、首を傾げる。



 やがて。待ち合わせの相手が、やってきた。



「沙良! 会えてうれしいよ」

 いつもの歯の浮くようなセリフ。



 芳樹。――では、なかった。



「きみちゃんパパ!」

 来たのは、五十代ぐらいのおじさんだ。


 温和そうな顔で、にっこりと笑う。

 沙良より身長は少し小さい。

 頭は寂しくなっている訳でもなく、わずかに白髪がにじむ程度だ。毛量は、普通にある。

 パリッとしたスーツを着ていて、大人の余裕が感じられた。



 なんだ……?



 ぱぱ? パパといっても、沙良のお父さんとはまた顔が違う。


 そう、そもそも沙良は父親の事をお父さんと呼んでいた。


 それ以外にパパが存在したのか。


 それに、きみちゃん? 沙良の父親の名前は流石に知らないが。



 これは……?



 二人はレストランでにこやかに会話している。

 おじさんは何事かを語り、沙良はうんうん、と聞いている。


 かと思えば、沙良は何になりたい、何の仕事がしたい、と夢を語り、今度はおじさんがうんうんと聞く。


 もしや。



『パパ活、か?』



 パパ活とは言わずもがな。おじさんが若い女の子とデートしたり、食事したりする。そして見返りにお金を渡す、行為……


 沙良はそんな事をしているのか。


 もしかして、お金が必要なのか?


 ならバイトでもしたらいいんじゃないのか?


 何故こんな危ない真似をしているんだ。



 なにより。



 いつもの沙良じゃない。


 いつもの沙良なら、こんな事しない。


 ――沙良様の闇――

 ――知りたくもないですね――

 あいつらの言葉が蘇る。


 ああ。


 これか。これが沙良の闇。確かに、知りたくもない、部類だ。


 俺は後悔していた。


 何でも知りたいと、思ったことを。


 見たくない。


 パパ活。



 それはを挟まない食事と金銭授受。そう。それだけの、はずだ。


 だから。



 沙良は食事が終わったら帰る。



 そのはずだ。


 なのに。



 なぜ二人は、どこかへ歩き出しているんだ?



 手を繋いで。恋人繋ぎなどして。


 解せない。


 まったく、解せない。


 それは俺の理解を超える。



 理解したくない。



 この先を。


 わかりたく、ない。


 

 しかし。


 着いたところはホテルだった。



 しかも。いかがわしい事をする専門のホテル、だ。

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