第八話 告白

『ピサメ!』


 芳樹が沙良の部屋に入った途端、ぬいぐるみたちが騒ぎ出した。

『元気だったかしら?』

『それが今の貴方の体ですか』

『今日は何の御用かなっ?』


 

 それらを見て、芳樹はにっこりと笑う。

「この、ぬいぐるみは?」


「あ、私の趣味なの。どれも小さい頃、親が贈ってくれたものばっか。ボロいけど、お気に入りなんだよね――この子もそう」

 俺を示す。俺は、沙良に突かれて、ぷらん、と揺れた。


「かわいいね」



「……あんがと。そんな事言ってくれたの芳樹くんが初めて……」



 そう言って沙良は芳樹に身を寄せた。


 二人の距離が近い。


 それは友達ではあり得ない距離。


 ごくごく親しい――それ以上の、もの。



「――私、今日……」



『やめろ! どういうつもりか知らんが俺らの前で不埒な真似は許さん! 沙良がどう言おうと……芳樹!』



『がんばるわねぇ』

『沙良が好きな人とどうなろうと沙良の勝手だよね~』

『元人間は感性が違いますね』

『うるせぇ、――黙ってろぬいぐるみ共!』

 

「――わかってるよ」

 す、と沙良を抱きしめる。沙良が身を固くする。何かに備えるように、期待するように。芳樹の胸に自分を委ねて、そして――


 俺はどうすることも、できないのか……?!


 芳樹の方を見る。芳樹は――まったく嬉しそうではない。何かを警戒するような表情。リラックスとは、ほど遠い。


 また、だ。なんで……。


 ピサメは、沙良の事が好きなはずだ。なのに。何故。


 と。


 芳樹はす、と身を引く。

「今日はここまで。続きはまた今度、――ね」


 沙良に顔を近づけ、頬に軽くキスをする。沙良は失望と期待がないまぜになった顔をしている。


「ゆっくり、近づいていこう」


「……うん」

 沙良はうなずく。


 これは……。これで、告白、という事になるのだろうか?



「今日はお邪魔したね。――ぬいぐるみさんたちによろしく」

「あ、送るよ!」

 芳樹は俺らに手を振って、去っていった。



 いつもの二人。

 いつもの構内。

 いつものベンチ。

 寒風が吹くのもお構いなし。二人は寄り添うように、暖め合うように、パンを食べる。

 終わったら沙良はトイレ。



 俺らは……二人きりになった。

 芳樹が俺を見る。


「貴方は」


『ん?』


「貴方は私がうらやましいのではないですか?」


『なんだ、イヤミか? すかしイヤミか?』


「茶化さないでください」


『そんなの、わかるだろ』

 俺は沙良を好きなんだ。でもだから、……そういう事だ。いちいち聞かなくてもわかるだろう。何だこいつ。


 ほんとにイヤミか。


「そうですか。……でも違うんです。そうじゃ、ないんです」


『なんの、話だ?』



「彼女は――」


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