第五話 ピサメ
「おんや? 自覚がないと見える」
やはり、
『俺が、あの時踏んだからか?』
「惜しいですね。正確には――踏みつけにした挙句ゴミ箱に捨てようとしたことですね」
気づいていたのか、ゴミ箱に入れようとしたこと。それに……
「しかも汚物扱いもしていた。ゴミだ、と」
それもわかっていたのか。だから……
『だから、俺と入れ替わった、のか?』
「わざとでは、なかったんです。強い感情に包まれて――気が付いたら、こうなってました」
『それはそれは……わざとじゃない、ごめんごめん、てか』
「でも貴方。喜んでいるのではないですか?」
『う』
図星だ。だがそれを認めるのは癪だった。
『そんな事……』
「浮かれたような気配が、伝わってきますよ」
う。
「わかりますよ、沙良が今あなたにしている事は。私もして貰っていましたから。抱きしめられて、キスされて。毎日……楽しいですか?」
『楽しいさ。楽しいともさ。だがお前は何がしたい? わざとでないなら戻るのか?』
「許されるなら――今しばらく。このままがいいですね」
『それは俺も構わないが……』
でも。
『あの態度は止めろ!』
「あの態度?」
『すかした態度だよ! 沙良を口説き落とそうとしているのか?』
「ああ、あれですか」
『どうなんだ!』
「それは……君には、関係のない事ですね」
『なんだと?!』
「おまたせ~」
「いえいえ、全然、待っていませんよ」
にこにこと、芳樹は応じている。
沙良が戻って、俺らの話は終わった。
■
沙良は家に帰り着く。
冷たい空気で部屋の暖かな空気を乱しながら、ゆったり過ごそうとしていた。
鞄から俺を外し、ベッドの上、みんなのところに置く。
ベッドでゴロゴロとスマホを触る。誰かと連絡を取っているのか、頻繁にタップしている。
『どうでしたか? あれから。ピサメには会えましたか?』
『ピサメは元気そうだったかしら?』
『ピサメの事だから、なんかアクションあったんじゃない?』
『ピサメピサメ、うるせぇよ……』
帰った途端、これだ。質問攻め。
こいつらはずっと家にいるから退屈なのだろう、と思う。
俺以外のぬいぐるみは持ち運ぶにはでかい。
だから、連れて行ってもらえるのは主に俺だけ、という事だった。
今日見聞きしたことを話して聞かせた。
『なるほどですね』
『ピサメ、やっぱり何かしてたわね』
『企みの匂いを感じるね!』
『企み? あいつなんか、企んでんの?』
『どうでしょうね。しかし、一日二日でそこまでするとは』
『意外と遊びたかったとか、あるのかしらね?』
『ピサメの事だからなんか意図があるんだよ、きっと!』
ピンワニはやたらと企みがあるのだと主張する。他の二体はどっちでもない、グレーな感じだ。俺は……
『なぁ、ピサメってどんな奴なの?』
『ピサメはねぇ……』
『ピサメ――桃色のサメの君は、とても沙良が好きなんですよ。一番のお気に入りであることを誇りに思っていた。我々とて、沙良の事は好きですよ? でも』
『あれには、負けるかもね』
『そんなに?』
『そうだよ! あの事を一番怒っていたのもピサメだし。もしかして、ピサメは……』
『あの事?』
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